■本、著者の情報
<作者>ロバート・A・ハインライン, 矢野 徹 訳
<原題>The Moon is a Harsh Mistress
<発行日> 1976年10月 (株) 早川書房
■感想 緑字が私の感想/コメントです。
地球の支配を受けている月の住人が、地球に対する独立戦争を仕掛けるという話。ガンダムも本作品を参考にしたと言われています (地球からの独立、コロニー落としなど)。
SF好きにとっての必読書、古典的名著です。ただ様々なサイトのレビューにもあるとおり、訳文が読みにくいというのは同感。読みにくいのは時代が古いからという訳ではなさそうで、訳者のセンスによるところが大きいかと思います。
また、月での革命や、地球での教授の演説、地球側との戦争など、出来事自体は大きなことがあったにもかかわらず、描写に躍動感が欠けており淡々と進んでいったのが個人的には残念でした。
最後にマイクが話さなくなったことで感動的に締めくくることができたと感じていますが、ではなぜマイクが話さなくなったのか。マイクの意志ならばそれは発達した知能のゆえんなのか、人間と人工知能の違いについての問題提起の描写等があれば、
個人的にはもっと良かったのではないかと思いました。
<主要登場人物>
・マヌエル・ガルシア・オケリー・デイビス (マニー)
月のコンピュータ技術師。身長175cm。政治に興味はなかったものの、行きがかり上、月解放運動に関与するようになる。マイクからは「マン」と呼ばれているが「マニー」に因んでではなく、「人間(man)」からきていると思われる。
・マイク
月にあるスーパーコンピュータ。シャーロック・ホームズの兄のマイクロフトにちなんで、マイクという名前をマニーが付けた。ワイオからはミシェールと呼ばれる。
2024年現在で実現しうるAIより優秀な、知能と知性をもっている。本作の時代設定である2076年頃には、マイクと同等のAIマシンが生まれている可能性はある。
・ワイオミング・ノット (ワイオ)
月解放運動の首謀者の一人。身長180cm、体重70kg。”why not"と発音が似ており、冗談でもそう言われるのをとても嫌っている (マイクはそれを知らず言ってしまった)。
"ワイ"と言うとwhyと混同する。"ワイオミング"と言うとワイオミング州と混同することから、"ワイオ"と呼びたいという提案がマイクからあり、ワイオ自身もそれが一番好きな呼ばれ方だと言っている。
・ベルナルド・デ・ラ・パス教授
主人公たちの中で最も政治的思想を持っている。リバタリアン。
<タイトルの意味>
初め「月は無慈悲な夜の女王」の女王はワイオのことを指しており、ワイオが月の代名詞的存在として位置づけられる様に、話が展開されていくのかと思いましたが、違いました。
話が進むにつれて、ワイオは革命にそこまで重要な役割ではなくなっていく様に感じました。
また原題の"Mistress"を女王と訳していますが、これは教授が地球にて演説する文句からとったものと思われますが、そこでは女教師と訳しています。
本文中と異なる訳を題名に付けた理由は、この文句は他にも様々なの意味を含ませてあるとも考えられるからとのこと(あとがきで説明あり)。
なぜ教師ではなく女教師なのかというと、月の代名詞がSheだからであると思われます。
われわれ月世界の市民は前科者であり前科者の子孫です。だが月世界自体は、厳格な女教師なのです。その厳しい授業を生き抜いてきた人々には恥ずかしく思う問題などありません
<この手段で本当に独立が成功するのか>
独立の切り札である月から地球に岩を投げることは、人を殺めるまでは地球側との交渉材料になりますが、一度人を殺めてしまった後は地球側は引くことができなくなるのが現実的ではないかと思います。
従って、軍事力の圧倒的差のある地球側が折れてしまったのが納得性に欠ける事でした。月の独立を認めたとして、地球側が絶えず月の脅威にさらされている状況は変わらない訳ですから。
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