■本、著者の情報
<作者>アガサ・クリスティー, 清水俊二 訳
<原題>Ten Little Niggers, And Then There Were None
<出版年>1955年6月, 原作:1939年11月
<出版社>早川書房
■登場人物
・ローレンス・ウォーグレイブ :高名な元判事。多くの者が被告の無実を確信していた殺人事件で、陪審員を誘導し不当な死刑判決を出した
・ヴェラ・クレイソーン :教師。家庭教師をしていた病弱な子供に、泳げるはずのない距離を泳ぐことを許可して溺死させた。
・フィリップ・ロンバート :元陸軍大尉。東アフリカで部下の先住民を見捨てて食糧を奪い、21人を死なせた。
・エミリー・ブレント :信仰にあつい老婦人。雇っていた10代のメイドの妊娠が発覚した際、彼女を自殺に追い込んだ。
・ジョン・マッカーサー :退役した老将軍。大戦の際に妻の愛人だった部下を故意に死地に追いやった。
・アームストロング :医師。酔ったまま手術をして患者を死なせた。
・アンソニー・マーストン :遊び好きの青年。危険運転で2人の子どもを轢き殺した。
・ブロア :元警部。犯罪組織から賄賂を受け取って法廷で嘘の証言を行い、無実の男に銀行強盗および殺人の罪を着せた。
・ロジャース, ロジャーズ夫人 :オーエンに雇われた召使い。二人で共謀し当時の雇用主を心不全に追いやり遺産を手に入れた。
・オーエン夫妻 :ユリック・ノーマン・オーエン (Ulick Norman Owen)、Unknownのアナグラム。
■解説
アガサ・クリスティの著作の中で最も多く、累計1億冊以上の発行部数を誇る作品です。これは世界のミステリ作品においても史上最高売上を記録しています。
絶海の孤島を舞台にした「クローズド・サークル」の金字塔であると同時に、童謡になぞらえて10人の登場人物が殺されていく「見立て殺人」の代表作としても高く評価されています。
初期のイギリス版タイトルは『Ten Little Niggers(10人の小さな黒人)』であり、作中の人形も黒人でしたが、時代の変遷に伴い「インディアン」から「兵隊」へと変更されました。
それに合わせ、現在のタイトルは『And Then There Were None(そして誰もいなくなった)』へと改められています。
ちなみに、冨樫義博氏の『HUNTER×HUNTER』に登場する能力「イレブン・ブラック・チルドレン」は、本作の旧題がモチーフではないかと個人的に推察しています。
10人のインディアンの少年が食事に出かけた。1人が咽喉をつまらせて、9人になった
9人のインディアンの少年がおそくまで起きていた。1人が寝すごして、8人になった
8人のインディアンの少年がデヴァンを旅していた。1人がそこに残って、7人になった
7人のインディアンの少年が薪を割っていた。1人が自分を真っ二つに割って、6人になった
6人のインディアンの少年が蜂の巣をいたずらしていた。蜂が1人を刺して、5人になった
5人のインディアンの少年が法律に夢中になった。1人が大法院に入って、4人になった
4人のインディアンの少年が海に出かけた。1人が燻製のにしんにのまれ、3人になった
3人のインディアンの少年が動物園を歩いていた。大熊が1人を抱きしめ、2人になった
2人のインディアンの少年が日向に坐った。1人が陽に焼かれて、1人になった
1人のインディアンの少年が後に残された。彼が首をくくり、後には誰もいなくなった
■あらすじ
デボン州沖に浮かぶ孤島「インディアン島」。
招待状を受け取った8人の客が到着し執事のロジャース夫妻が出迎える。しかし肝心の招待主であるオーエン夫妻の姿はどこにもなかった。
各客室には古い童謡が飾られ、食卓には10体の人形が置かれていた。夕食後、蓄音機から流れる謎の声が、島にいる10人全員が過去に殺人を犯したあるいは死の原因を作ったと告発する。
客たちは誰もオーエン夫妻と面識がなく、ウォーグレイヴ元判官は差出人名の"U.N.Owen"が「Unknown(正体不明)」をもじったものだと推測した。
その直後、青年マーストンが青酸カリによる中毒で急死。翌朝にはロジャース夫人が、昼食時にはマッカーサー将軍が遺体で発見される。
生存者たちは、死因が童謡の一節と一致し、死者が出るたびに人形が一つずつ消えていることに気づく。
島には彼ら以外に人影はなく、犯人は残された者の中にいると断定せざるを得なくなる。恐怖と疑念が渦巻く中、ロジャース、エミリー・ブレントと次々に犠牲者は増えていく。
一同が全室を捜索する中、ロンバードの拳銃が紛失。その後、自室で海藻に驚き悲鳴を上げたヴェラのもとへ皆が駆けつけるが、
その隙に1階に残ったウォーグレイヴが裁判官の法衣を纏い額を撃ち抜かれた姿で発見される。アームストロング医師により彼の死亡が宣告された。
しかし惨劇は止まらない。紛失した銃が戻りブロア探偵が何者かの気配を追う中で、アームストロングが行方不明となる。
ヴェラ、ブロア、ロンバードの3人は協力して屋外へ避難するが、食料を取りに戻ったブロアが、熊の形をした大理石の時計の下敷きになり死亡。
さらに海岸でアームストロングの遺体を発見したヴェラとロンバードは互いを犯人だと確信する。
ヴェラは隙を突いてロンバードから銃を奪い、彼を射殺。最後に生き残った彼女が極限状態の中で自室に戻ると、そこには首吊り用の縄と椅子が用意されていた。彼女は童謡の最後の行に従い、自ら命を絶つ。
後日、島を訪れた警察は、全員が死亡している光景を目の当たりにする。
招待客の手配に関与したアイザック・モリスもまた島外で毒殺されていた。
警察は日記や検視報告から事件を再現しようとするが、状況が矛盾しており、誰が最後の一人を殺したのか犯人を特定できぬまま捜査は行き詰まる。
事件の真相は、後にトロール船が引き揚げた「瓶詰の手紙」によって明かされた。
告白文の主はウォーグレイヴ判官であった。彼は強烈な正義感と殺人への欲望を併せ持っており、死刑を免れた犯罪者たちを自らの手で裁く計画を立てたのだ。
彼はアームストロング医師を言葉巧みに抱き込んで「偽装死」を演出し、自由な身となって他の者たちを殺害。
アームストロングをも海に突き落とした後、最後に残ったヴェラの心理を操り自害へと追い込んだ。
そして最後に、日記に記された「自分の死」の演出と矛盾しないよう、複雑な仕掛けを施した銃で自らの頭を撃ち抜き、完全犯罪を完結させたのである。