【まとめ】神津恭介の復活



読んだ本のこと

情報科学:00

ジャーナリズム:00

哲学:10

歴史:20

社会科学:30

自然科学:40

技術,工学:50

産業:60

文学:90

公開日:2026/5/24    

■本、著者の情報

<作者>高木彬光
<発行日>1993年9月
<出版社>出版芸術社

■作品概要

神津恭介“平成三部作”の第二作目として位置づけられる。伊豆の「懶惰(らんだ)の城」で隠遁していた神津恭介が、再び事件解決に乗り出す。

■目次

第一章 披露宴の惨劇
第二章 黒焦げの死体
第三章 凍える夏
第四章 DNA鑑定
第五章 遺言
第六章 北国の青い空
第七章 神津恭介の疑惑
第八章 単純と複雑


■登場人物

神津恭介
探偵。本作では初めから積極的に事件解決に関わるというより、香織に示唆を与えるという形でかかわる。

河島幸一
巨額資産を持つ河島健一郎の嫡男。披露宴で弟の河島悟に刺殺される。

河島(旧姓:鈴木) 裕美
幸一の新婦で香織の友人。後にバスタブで凍死という不可解な死を遂げる

河島悟
幸一の弟。彼女を奪われた恨みから兄幸一を殺害。自らも焼死をとげる。

河島幸子
河島健一郎の娘。彼女も後にバスタブで凍死。事件の主犯でもある。

清水香織
東洋新聞の記者。幸一の披露宴に参加し、その目の前で幸一が殺害されるのを目撃。事件の解決に乗り出す。


■あらすじ

新郎・河島幸一と新婦・裕美の華やかな結婚披露宴。約800人もの招待客が集まる中、突如として惨劇が起こる。 ケーキカットの直前、ケーキを運ぶスタッフに扮して現れた幸一の弟・河島悟が、幸一を刺殺したのである。

悟は何事もなかったかのように会場を後にしたため、何が起こったのか理解できない招待客たちは、ただ呆然と彼を見送るしかなかった。 そんな中、裕美の友人であり東洋新聞の記者でもある清水香織だけは異変を察知し、悟の後を追う。しかし、彼を見失ってしまう。 悟の犯行動機は明白と思われた。かつて裕美と悟は交際していたが、裕美は兄・幸一と結婚していた。幸一に恋人を奪われたという怨恨が、犯行理由と見られたのである。

その後、悟は知り合いのラーメン店に立ち寄ったのち、自らの車内でガソリンをまいて焼死した姿で発見される。兄を刺殺した末の自殺と見られ、事件は一応の決着を見たかに思われた。 しかし、さらに異変が起こる。裕美が自宅の浴槽で“凍死体”として発見されたのである。裕美を殺害する動機を持つ人物として真っ先に浮かぶのは悟だったが、悟はすでに死亡している。犯行は不可能のはずだった。

香織は、焼死したのは本当に悟なのかと疑念を抱く。実は悟は生きており、別人を身代わりにして焼死を偽装したのではないか。 しかしDNA鑑定の結果、悟のアトリエから採取された毛髪と焼死体のDNAが一致し、死亡したのは河島悟本人であると断定される。

こうして裕美を殺す動機のある人物が見当たらないまま、香織は行き詰まる。そんな折、神津恭介がT大のシンポジウムに参加することを知り、香織は取材を名目に接触し、助言を求める。 神津は、被害者たちの共通点に着目する。幸一、悟、裕美――彼らはいずれも河島家の当主・河島健一郎の遺産相続に関係する人物だった。そして、その事実から新たな疑惑が浮上する。河島幸子である。

香織は幸子の調査を開始し、彼女が毎月北海道へ出かけていることを知る。香織は、それが裕美殺害時のアリバイ作りではないかと考え、幸子こそが犯人だと確信する。

だが、その推理を揺るがす事件が起こる。河島幸子が、裕美と同じ手口で殺害されたのである。これにより、事件はさらに混迷を深める。 その頃、香織はある経路から河島健一郎の遺言書を入手する。そこには、遺産はまず河島幸一に相続され、幸一が死亡した場合は河島悟、河島幸子、草加真弓の三名に等分相続されると記されていた。

草加真弓は健一郎の隠し子で、現在は海外に住んでいる。香織は、動機を持つ人物として真弓を疑う。しかし神津は、犯人は草加真弓ではなく、むしろ彼女は来日した際に殺される危険があると告げる。 さらに、もう一人の相続人が北海道にいるはずだと指摘する。

真相を探るため、香織は北海道へ向かう。そこで、幸子には子どもが存在し、その子は倉田芳樹と美和夫妻の養子となっていたことを知る。美和は幸子の大学時代の友人だった。 調査を進めるうち、香織は、河島悟と河島幸子が共謀し、倉田芳樹を悟の身代わりとして焼死させたのではないかと考える。しかしDNA鑑定では、死亡したのはあくまで河島悟本人という結論が出ていた。 この矛盾を抱えたまま、香織は北海道から戻った後に伊豆・伊東にある神津恭介の住まい「懶惰の城」を訪ねる。神津は、DNA鑑定の前提そのものに問題があったと指摘する。 悟のアトリエに残されたサンプルは、偽装が可能だったというのだ。香織は再び、焼死したのは悟ではなく倉田芳樹ではないかと考え始める。

そんな中、草加真弓が予定を早めて来日したという情報が入り、神津と香織は彼女の身を案じてホテルへ急行する。しかし、一歩遅かった。草加真弓もまた、裕美や幸子と同じ手口で殺害されてしまう。

悟の生存を確信していた香織と警部に対し、神津は衝撃的な推理を語る。犯人は河島悟ではない、というのである。 その根拠は、悟が死の直前に立ち寄ったラーメン店に残された指紋だった。これは、少なくともその時点で悟本人が生存していたこと、そして実際に死亡したのも悟本人であることを示していた。

真犯人は倉田芳樹だった。

当初、河島悟と河島幸子は共謀し、倉田芳樹を殺害して悟の焼死偽装を行おうとしていた。しかし幸子は、遺産を独占したいという欲望から計画を裏切る。 逆に倉田芳樹と手を組み、悟を罠にはめ、本当に焼死させてしまったのである。 倉田芳樹は、幸子と結ばれたいという感情と、多額の遺産を得られるという思惑から共犯となった。だが最終的に幸子にも裏切られたことで、彼は幸子を殺害するに至る。

こうして警察は倉田芳樹を逮捕し、一連の事件は終結する。

しかし事件の根底には、さらに深い悲劇があった。河島幸子の子どもは、実は河島幸一との間に生まれた子であり、それは幸一による暴力的な関係の末に宿した子どもだったのである。 お嬢様育ちで何も知らずに生きてきた幸子は、この出来事を境に人生を大きく狂わせていった。

神津恭介は、事件の主導者は河島幸子だったと結論づける。だが同時に彼女にも同情すべき背景があったことは間違いない。

誰も好き好んで人を殺すわけではない。 殺人事件の背後には、愛憎の悲劇が隠されている。 事件の発端は、いつも一人の人間の苦しみから始まる。

そう語られ、物語は幕を閉じる。

■感想

バスタブでの殺害トリックは、液体窒素による凍死というもので、確かに意外性のある殺害方法ではあった。 ただ、作中でドライアイスによる殺害という推理も一度提示されていたため、最終的に液体窒素が真相だと明かされても、そこまで大きな意外性は感じられなかった。

しかし一方で「なぜ凍死でなければならなかったのか」という必然性については、やや分かりにくく感じた。 作中では、悟が「裕美をきれいなままで殺したい」という思いから凍死を選んだとされているが、その動機が幸子や真弓の殺害にまで適用されるのは、少し無理があるように思えた。 特に、同じ方法で複数人を殺害するには、被害者の抵抗もあるはずで、犯行の現実性には疑問が残った。

また、事件解決までのストーリー構成という観点では、草加真弓を登場させる必然性はやや薄かったように感じた。 相続人として登場する重要人物ではあるものの、物語の中では比較的あっさりと殺害されてしまい、結果として印象が弱かった。

同様に、事件解決の本筋において不要に感じたエピソードとして、裕美の元交際相手を追う場面がある。 香織とのデートを賭けにして、石井が裕美の交際相手を疑い、青森や沖縄まで飛んでいく展開は、サイドストーリーとしてはコミカルで面白かった。 しかし、事件におけるミスリードとしての役割は果たしていたものの、物語全体の本筋や真相解明に大きく関わるわけではなく、やや冗長にも感じられた。

一方で、今回の作品では神津恭介が前面に出て捜査を進めるというより、助言者・推理の整理役として事件解決に関わる形だった。 そのため、初めて神津恭介シリーズを読む自分としては、もっと神津恭介自身が前面に立ち、事件を解決していく展開を見てみたかったという思いが残った。

もっとも、長くシリーズを読んできた読者からすれば、このような「神津恭介の復活」という立ち位置や、控えめな関わり方にも意味があるのかもしれない。 そうした点も踏まえると、いずれ他の神津恭介シリーズ作品にも触れてみたいと思わせる一作だった。




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読んだ本のこと

情報科学:00

ジャーナリズム:00

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歴史:20

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