行動経済学の概要を理解する



心理学, 哲学, 行動経済学

公開日:2020/11/6 , 最終更新日:2022/4/2   

■行動経済学とは
ゲーム理論に基づく経済学は、あくまでも人間は経済的に合理的な行動をとるという事が前提になっています(そういった人のことをホモ・エコノミクスという)。しかし人間は必ずしも経済的に合理的に行動する訳ではないというのは感覚的にわかると思います。 行動経済学とは、人間は非合理的であるという前提に立った時に、どのような経済行動を起こすかを分析の対象とした学問です。人間の非合理的な行動は心理学で説明できますので、 行動経済学は心理学の立場から経済学を説明した学問であるともいえます。

また行動経済学の創始者はダニエル・カーネマン(1934~)とエイモス・トヴェルスキー(1937-1996)と考えられており、下記に説明するプロスペクト理論を打ち出しました。 なおダニエル・カーネマンは2002年にノーベル経済学賞を受賞しています。トヴェルスキーはこの時死去していたため受賞しておりません。

ここでは行動心理学の代表的な具体例を説明します。

■ヒューリスティック
ヒューリスティックとは「経験則」のことです。経験則に頼りすぎて誤った判断をしてしまう場合がありますが、それよりも、 重大な局面や危機に陥った際や複雑な事象を解決する際に、 ヒューリスティックを用いて瞬時に物事を判断することの方が、生存にとっては有利に働いてきたという証拠であると考えられます (参照:ヒューリスティックとバイアスの違い)。

■フレーミング効果
論理的には同じ内容であっても表現の仕方によって受け取り方が異なる現象のこと。例えば、死亡する確率が20%の手術と説明されるのと、生存する確率が80%の手術と説明されるのとでは、後者の説明を受けた患者の方がその手術を選択する確率が増える。

■プロスペクト理論
プロスペクト理論とは、利益獲得及び損失回避の心理が及ぼす人間の行動メカニズムについて説いた理論で、獲得した利得/損失に対して得る効用が以下の様に非線形の関数(価値関数)で表すことができます。



<具体例>
限界効用逓減の法則
人からプレゼントを1個貰った時の嬉しさと、同じものを例えば10個貰った時では、一個当たりの貰った嬉しさの幅が減少し、ある個数以上からは嬉しさは増加しない。 また逆に、ある一定以上の損失に対しても辛さを感じにくくなる。これはギャンブルにおいて、初めに10万円負けるのはとても辛くても、負けが込み始めて100万円でも200万円でも負けの感覚がマヒするというものです。

損失回避願望
・1万円得した場合の満足感と、1万円損した場合の満足感の喪失度合いは同じではなく、1万円損した場合の方が心のダメージの方が大きい。 従って、勝率が半々の勝負に勝ったら1万円貰えるが、負けたら8000円失う勝負で、ようやく人は勝負を受ける。(負けたら1万円損する勝負には乗らない)

・ボーナスが50万円だと思っていたのに実際は60万円だった場合と、70万円だと思っていたのに実際には60万円だった場合、同じ60万円でも後者の嬉しさは減る。 その人が想定する起点からの増減で効用が決まり、その起点を参照点という。

・確実に5万円貰えるか、半々の確率で10万円貰うか0円になるかのくじを引くか。期待値はどちらも同じだが、確実に5万円貰える選択をする人が多く、人は不確実性を嫌う傾向がある。 なお不確実性は、取得できる金額の確率分布の分散の大きさで表現する事ができます。

・一方、確実に5万円損するか、半々の確率で10万円損するか0円になるかのくじを引くか。この場合はくじを引く選択をする人の方が多く、損失に対してはリスクを取ってでも、損失を回避したいという心理が働く。

■時間割引
今1万円貰えるのと1年後に1万円貰えるのとでは、誰もが今貰いたいと思いますが、一年後に1万100円貰えるのとでも今1万円を貰いたいと思う人が多いと思います。 何故なら、今1万円を貰っていたらそれを運用する事で、1年後には1万100円以上の価値を生み出している可能性があるからです。 逆に考えると、1年後に1万円の価値を生み出している現在の金額は1万円より小さい額になる筈です。この考えを時間割引といい、その時の割引率のことを時間割引率といいます。



また、1年後に1万100円をもらうのは待てないが、10年後の10万円と11年後の10万100円を比べると、11年後でも貰うのを待つことができるようになります。 これは時間に対して時間割引率が一定ではないことを示しており、より近い将来の方が割引率が高いことを双極割引といいます。また時間に対して割引率が一定のことを指数割引といいます。



この考えは資産運用の世界では常識的な考えですが、資産運用に限らず普通の生活においてもこの考えが適用される場合があります。 例えば、もう少し待てば新機能の付いた電化製品が出るのに、それを待てずに今販売されている商品を買ってしまう、など。 その人の我慢強さと言ってしまうこともできますが、それを行動経済学の考えで表すとこういうことになります。

■ピークエンドの法則
ピークエンドの法則とは、ある出来事に対して最も印象や記憶に残るのは、その出来事の一番印象深い「ピーク」とその「終わり」部分である、というもの。

■アンカリング効果
アンカリング効果とは、最初に与えられた情報や数値に基づいてその後の意思決定が影響される現象のことです。 例えば、何か数値に関する質問をする際に、予めルーレットを回して出た数値に近い値を回答を行うなど。

■少数の法則
少数の法則とは、サンプル数が少なくそれだけは統計的に正しいとは言えない情報にもかかわらず、信じてしまう現象のこと。 「大数の法則(サンプル数が多ければ平均に収束する)」への対比とされる。




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