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■功利主義とは
イギリスの哲学者のジェレミー・ベンサム (1748~1832)が功利主義の原理を確立した。「最大多数の最大幸福」といい、社会全体の幸福量を最大にする事が人間が目指すべき善であるという考え方である。
道徳的に正しいとされることも、実は暗黙のうちに幸福の最大化という考えに依存しているとする。功利主義は総和主義とも呼ばれ、また市場原理主義と相性が良い。
ここでベンサムの考える幸福とは何か。幸福度は人間の受ける快楽と苦痛の総和によって決まるとし、快楽が増加または苦痛が減少すると幸福度が上がると考える。
<具体例>
一人のお金持ちが10人の貧乏人に100万円ずつ配った場合、お金持ちは1000万円失ったとしてもそれほど幸福度は下がらない。一方、貧乏人にとって100万円を受け取ることは
幸福度が大きく上がる。幸福度の総和は100万円配る前より配った後の方が上がるので、その行為(より具体的な例でいうと、お金持ちに対する高額な税)は正しいことになる。
<ベンサムの考案したパノプティコン>
犯罪者の幸福度の増大も社会全体の幸福度を増大させることにつながると考え、刑罰に関する政策をもっと効率的にしようと考えたものの一つが円形刑務所(パノプティコン)である。
パノプティコンは看守が受刑者からみられることなく監視できる中央監視塔を備えた円形の刑務所である。犯罪者の労働を常に監視できる状態にしておけばその生産性が上がると考え、
また看守を民間が運営し、労働で得られる利益を看守に分配することで運営にかかる費用も自給自足できるので、幸福度の総和が向上するというもの。なお、網走刑務所はこのパノプティコンがモデルになっている。
<ベンサムの死後>
ベンサムは死後も人の役に立つにはどうしたらよいかと考え、未来の思想家にインスピレーションを与えることができるように、自分の体を保存し、自分の姿を展示できるようにした。
保存した体は国際ベンサム協会の式典や台車に乗って参列し、「出席すれど投票せず」と記録された。当時は本物の体であったが腐敗が進んだので頭部はロウで置き換えた。
一時は本物の頭部が、足元に置かれていた。
<功利主義の問題点>
大きく二つ考えられる。
① 個人の権利を踏みにじる
社会全体の幸福度が上りさえすれば、個人の権利を踏みにじっても良いという考えになってしまう。例えば、台風に遭遇し、船に乗っている5人が漂流しているとする。生き残るため(食料にするため)に誰か一人を殺してもいいのだろうか。
1人が犠牲になるがその代わり他の4人は生き残るので、功利主義的には正しい行為になる。しかしそのために個人が犠牲になってもいいのだろうか。
② 幸福度を客観的に測ることができない。
そもそも幸福度を快楽と苦痛という単一の尺度に還元することは適当ではなく、また同一の刺激でも受け取る快楽/苦痛には個人差があります。例えば"いくら貰えたら昆虫を食べるか"と問われても、その値段は人によって異なるだろうし、
大切な人を失った辛さも人によって異なるだろう。
<功利主義の発展>
ベンサムの後、ジョン・スチュアート・ミル (1806-1873)は功利主義を発展させ、上記功利主義の反論に答える事を試みた。まず、個人の権利を踏みにじるような社会になると、長期的には社会の幸福が減少するという。
それは、少数派を弾圧することで、次は自分が少数派になるかもしれないという恐怖から自由な考えを持つことができなくなり、画一性のない無味の社会になってしまう可能性があるためである。
またベンサムは、快楽には質の良い悪いという概念はなく、単純に快楽の大きさと持続時間によって決まり、一般的に質の高いと考えられている快楽は、単により大きく長い快楽であるのに過ぎないと主張しているのに対して、
一方ミルは、快楽の質は確かに存在し、シェークスピアを見るのと娯楽番組を見るのではやはりシェークスピアを見るのが質が高いと感じるという。娯楽番組の方がシェークスピアより楽しめる(つまり快楽が大きい)と考えているにもかかわらずにである。
これらのミルの主張に対し、個人の権利を踏みにじるのは良くないとするのは人類の幸福の総和のためで、結局は個人を尊重している訳ではないという批判がある。
また質の高い低いを定めるということは、何か道徳的な規範を定める必要が出てくるので、それは功利主義の否定ではないかとも言われている。
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