インド神話の構成



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公開日:2025/5/2    

■インド神話の構成

インド神話は紀元前1200年頃にバラモン教の影響のもとで形成され、その中心的な文献として『ヴェーダ』があります。 やがてバラモン教は土着の信仰やさまざまな宗教思想と融合し、ヒンドゥー教へと発展していきました。その過程で『ラーマーヤナ』や『マハーバーラタ』といった壮大な叙事詩が成立し、インド神話の物語世界をさらに豊かにしました。 具体的には以下の様な聖典があります。



■有名な神

<インドラ>
インドラは特にヴェーダにおいて中心的な存在で、雷と戦いの神であり神々(デーヴァ)を統べる王です。 リグ・ヴェーダでは最も多く賛歌が捧げられており、特に悪魔ヴリトラを打ち倒して雨と水を世界に取り戻す英雄として描かれます。 彼は雷の武器「ヴァジュラ」を携え、天界スワルガを治める存在です。ただし、時代が下るにつれ、ヒンドゥー教の中での重要性は相対的に低下し、ヴィシュヌやシヴァの影に隠れるようになります。 それでもヴェーダ時代の神格としてのインドラの影響力は非常に大きく、インド神話における初期の英雄神の代表といえます。

<ブラフマー>
三大神(トリムルティ)の一柱。ブラフマーは宇宙の創造を司る神であります。 彼はヴェーダの知識を語る四つの口を持ち、宇宙の構造、人間、神々など、世界のあらゆるものを創り出した存在とされています。 起源神話では蓮の花の上に座り、瞑想によって創造を始めたと語られます。しかし信仰の面では、他の三大神と比べて顕著に低く、現在のインドにおいてブラフマーを本尊とする寺院は非常に少数です。 これは、傲慢ゆえにシヴァの怒りを買い、人間からの崇拝を受けない運命になったという神話に由来するとされます。彼の伴侶は学問と芸術の女神サラスヴァティです。

<シヴァ>
三大神の一柱。シヴァは「破壊と再生」を司る存在で、世界が滅びるときにすべてを破壊し次の創造に備える役割を担います。 彼は瞑想と修行の神でもあり、山中で苦行する姿や宇宙を舞う「ナタラージャ(舞踊王)」としても知られています。 象徴的な特徴としては、第三の目、首に巻かれた蛇、トリシューラ(三叉槍)、聖なる牛ナンディなどがあります。 信仰面ではシヴァ派において最高神として崇められ「シヴァ・リンガ」という象徴物によって広く崇拝されています。

<ヴィシュヌ>
三大神の一柱。ヴィシュヌはヒンドゥー教における「宇宙の維持神」であり、世界の調和と秩序を保つ役割を担います。 特に特徴的なのは、悪がはびこる時代においてアヴァターラ(化身)として地上に現れる点で、代表的な化身にはラーマ(『ラーマーヤナ』の主人公)やクリシュナ(『マハーバーラタ』の中心人物)が含まれます。 彼は円盤(チャクラ)や法螺貝(シャンカ)を持ち、神鳥ガルーダに乗って空を翔ける姿で描かれます。ヴィシュヌ派では最高神とされ、バクティ(信愛)信仰の中心でもあります。

<ラクシュミー>
富・美・繁栄・幸運の女神であり、ヴィシュヌの妻として崇拝されます。蓮の上に座り金貨を授ける姿で描かれ、家庭や経済の繁栄をもたらす女神です。 ディーワーリー(光の祭り)ではラクシュミーに光を捧げ、家庭に幸福と豊穣を呼び込む祈りがささげられます。商人、家族、女性などから広く信仰され、ガネーシャと並んで日常的な祈りの対象でもあります。

<パールヴァティ>
シヴァの妻であり、優しさと献身を象徴する女神です。彼女は山の神の娘で、「パールヴァティ(山の娘)」という名を持ちます。 慈母的な性格を持ち、家庭、愛、豊穣、献身などを司ります。彼女はまた様々な形で現れ、怒れる姿としてドゥルガーやカーリーにも変化します。 信仰面では女性たちの守護神として厚く崇拝され、家族や夫婦の神としても重視されています。彼女はガネーシャやスカンダの母でもあります。

<ガネーシャ>
象の頭を持つ神で、智慧、障害の除去、学問、商売繁盛の守護神として非常に広く信仰されています。 シヴァとパールヴァティの息子とされ、誕生の神話ではシヴァに首を斬られた後、象の頭を付けられて蘇ったという話があります。ヒンドゥー教のあらゆる儀式の始まりには、まずガネーシャに祈るのが習わしとなっております。

<カーリー>
破壊と死、時間(カラ)を司る女神で、恐ろしく強力な力を象徴します。パールヴァティやドゥルガーの怒れる化身として現れ、悪を徹底的に滅ぼす存在です。 真っ黒な肌、赤い舌、首飾りには敵の頭蓋骨をぶら下げ、狂気すら感じさせる姿で描かれますが、その力は宇宙を浄化する役割を持ちます。 破壊的な神格でありながら、信者にとっては深い慈愛を持つ母(カーリー・マー)としても崇敬されます。

<ラーマ>
ヴィシュヌの第7のアヴァターラ(化身)であり、インドの大叙事詩『ラーマーヤナ』の主人公です。 義と道徳を重んじる理想の王、息子、夫、戦士として知られ、「ラーマ・ラージャ(ラーマの統治)」は理想国家の象徴ともされています。 彼は魔王ラーヴァナによって誘拐された妻シーターを救うために、ハヌマーンらと共に戦う英雄として描かれます。信仰の面でも、ヴィシュヌ派を中心に非常に重要視されます。

<クリシュナ>
ヴィシュヌの第8のアヴァターラであり、非常に複雑で多面的な神格です。 少年期には笛を吹く美しい牛飼いとして女性たち(ゴーピー)を魅了し、青年期には『マハーバーラタ』における英雄アルジュナの導師として登場します。 『バガヴァッド・ギーター』では宇宙の真理と義務を説き、神の人格化としての最高存在(ブラフマン)とされます。 愛と遊戯(リラ)、神秘と哲学、道徳的な行動と超越的知恵という多様な面を持ち、バクティ信仰の中でも最も愛される神の一人です。




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