北欧神話の概要



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公開日:2025/3/21    

■北欧神話とは

北欧神話とは、スカンジナビア地方 (ノルウェー、スウェーデン、デンマーク、アイスランドなど)に伝わる神話体系のことで、主にヴァイキング時代(8世紀~11世紀)に形成されたと考えられています。 その後1220年頃にアイスランドの詩人スノッリ・ストゥルルソン著したエッダ(スノッリのエッダ)と、数多くの詩集から成る作品(詩のエッダ)の二つの作品が北欧神話とされています。 それぞれのエッダの主な構成は以下となります。

<スノッリのエッダ>

① 序文
全能の神が天地創造の話やノアの箱舟の話があることから、聖書をなぞったとされる記述があり、ユダヤ教やキリスト教の影響がみられる。

② ギュルヴィの惑わし
北欧神話の世界を語る上で最も重要な部分。架空のスウェーデン王のギュルヴィが旅をして、アース神たちの住む土地に至り、ハール、ヤヴンハール、スリジから世界の創造から滅亡、再生までの物語を聞くという流れ。

③ 詩語法
詩の神ブラギがエーギル神に詩の技法の説明をするという構成。その中で神々と巨人をめぐる神話的な話も含まれる。

④ 韻律一覧
スノッリがノルウェー王ホーコン4世とスクーリ公の偉業を讃える目的で書いたもの。


<詩のエッダ>
古い神話を扱う「神話詩」と人間英雄を扱った「英雄詩」があります。以下は神話詩の構成となります。

① 巫女の予言
② 高き者の言葉
③ ヴァフスルーズニルの言葉
④ グリームニルの言葉
⑤ スキールニルの言葉
⑥ ハールバルズの歌
⑦ ヒュミルの歌
⑧ ロキのいさかい
⑨ スリュムの歌
⑩ アルヴィースの言葉
⑪ パルドルの夢
⑫ ヒュンドラの歌
⑬ 巫女の予言 短編
⑭ リーグの歌


■北欧神話の世界観

北欧神話は、以下のように九つの世界で構成されています。


■北欧神話の神々


・オーディン
最高神。知識、戦い、魔術に長けている。片目をと引き替えにミーミルの泉の水を飲み、知識を得る。ヴァルホル宮に死者を運ばせて戦士にして、きたるべきラグナロクに備える。

・トール
最強の神。雷神、農耕神でもある。一説にはオーディンより最高位にあるとも言われている。フルングニールと言う最強の巨人を倒すなど、様々な戦いの伝説を持っている。

・ロキ
巨人族の末裔。オーディンの義兄弟となってアースガルズに住み、トールの妻のシフの髪を切る悪戯や、アースガルドの城壁を造りかけた巨人の邪魔をしたり、様々な事件を起こしながらも、時には思いがけぬ功績を神々にもたらしてきたため、 神々からは大目に見られてきた。しかしバルドルを殺した時には許されず鎖に繋がれていたが、ラグナロクの時にはその報復として神々と戦った。

・フレイ
豊穣の神。目惚れした巨人のゲルドを手に入れるため、召使スキルニルを巨人の国に遣わせる。その際に褒美として勝利の剣をスキルニルに与えてしまった為に、ラグナロクでは戦う武器がなくスルトルにやられてしまう。

・フレイヤ
愛と美、豊穣の女神。性に関して奔放であり、アース神族のほとんどの神々と肉体関係を持ったことがあり、また、首飾りを手に入れようとして、四人の小人と四晩を過ごすこともあった。

・チュール
片手の神。神々がフェンリルを捕えた際に、神々が狼を騙すしていない証拠としてフェンリルの口に片手を差し入れたが、実際には騙していた為フェンリルは怒って片手を食いちぎった。

・バルドル
光り輝くように美しく、やさしい神。母親のフリッグは彼を傷つけないように世界中の生物に彼を傷つけないように頼み、そして決してバルドルに危害を加えないように約束する。 しかしヤドリ木とだけは約束を交わしていなかったので、ロキはヤドリ木を投げつけてバルドルを殺してしまう。ラグナロクの後よみがえる。

・ベルセルク
バーサーカーともいう。オーディンの魔術によって変えられた狂暴な戦士のこと(固有名詞ではない)。クマや狼の皮を身に付けている。

・ワルキューレ
ヴァルキリーともいう。ヴァルホルに運ばれ蘇った戦士に対して給仕する(固有名詞ではない)。また英雄や人間たちの恋人としても登場する。

■北欧神話での出来事

<天地創造>
はじめは何一つありませんでした。限りなく広がっている世界は、ただ一面に霧に包まれていて何も見えず、大地も空もなくぼんやりした形のかたまりでした。 そしてその真ん中にギンヌンガガプという計り知れない程深い裂け目の穴が広がっていました。ギンヌンガガプの北側はとても寒い世界のニブルヘイムがあり、南側はおそろしく熱い火の世界のムスペルスヘイムがありました。 ムスペルスヘイムの真ん中には、スルトルという火の悪魔が炎の剣を持ってこの国を見はっています。

ニヴルヘイムの霜がムスペルヘイムの熱で溶かされてできた雫から生まれ、原初の巨人であるユミルが生まれました。またこの時、牝牛アウズフムラも生まれ、ユミルは牝牛の乳を飲んで多くの子孫を産み、これが霜の巨人族となりました。 また牝牛アウズフムラが舐めた石からブーリが生まれ、最初の神となりました。そしてブーリはブルという男の子を生み、ブルは巨人の女のベストラと結婚して、オーディン、ヴィリ、ヴェーの三人の神を生みました。

三人の神は、ユミルがあんまり体が大きく性格も悪いのでユミルを殺すことにしました。ユミルは血みどろになって暴れましたがついに殺され、身体中から血が噴き出して大きな川となり血の洪水を引き起こし、 他の巨人も全て溺れ死んでしまいました。ただし、ベルゲルミルという巨人だけは妻と一緒に舟に乗り込んで洪水から逃れることができました。

ベルゲルミルが逃げていったのはヨトゥンヘイムという国で、そこで新たに巨人を生みました。ベルゲルミルや巨人はこの時から神々を憎むようになり、事あるごとに神々を狙う様になりました。

ユミルを殺したのち、オーディンたちはユミルの身体を使ってこの国を作り上げ、アースガルドという国に住むようになりました。また、海辺に漂う二本の木を拾い上げ、この木に魂と知恵を授け人間を作り上げました。 そして男をアスク、女をエムブラと言いました。

<アース神族とヴァン神族との戦い>
ヴァン神族のグルヴェイグらが巨人の国のヨトゥンヘイムから侵入し、アースガルズの平和を乱しました。怒ったアース神族たちはグルヴェイグを捕え、槍で貫いたり火炙りにしましたが、不死身のグルヴェイグは二度蘇り、三度目の刑でようやく死にました。 その後オーディンは報復のためにヴァン神族に戦争を挑み、アース神族とニョルズの率いるヴァン神族との戦争が始まりました。戦いは長期間続き、アースガルズの防備壁は破壊されました。(後にこの壁は、巨人によって再構築されました)

戦いはなかなか決着しなかった為、互いに人質を交換することで和解することにしました。ヴァン神族は最も優秀なニョルズとその息子のフレイ、娘のフレイヤ、最も賢いクヴァシルを人質として差し出しました。 アース神族は無能な神ヘーニルと巨人ミーミルを人質として差し出しましたが、ヘーニルは一人で決断することができない無能な神でした。これを侮辱だと感じたヴァン神族はミーミルを殺し、その首をアースガルズへ送り返しました。

<最終戦争, ラグナロク>
巫女の予言には以下のようなことが書かれています。

やがて冬がやってきて、あいだに夏を挟むことなく三つの冬が続き、全世界が恐ろしい戦争にまきこまれる。 そのとき兄弟は互いに殺し合い、世界は苦しみ悶え、姦通がはびこり、嵐の世、狼の世が続いて一人として他人をいたわる者なからん


そうして予言のとおり冬が到来し、太陽も月も隠れ、あらゆる鎖や呪縛が解き放たれました。バルドルを殺した為に鎖でつながれていたロキや、フェンリルが踊りでて、ヨルムンガンドも海の底から這いだしてきました。 また、炎の国の巨人スルトルや、霜の巨人や山の巨人も押し寄せてきました。

神々と全ての戦士は武器を取って戦いに出ました。オーディンはグングニルの槍を持ってフェンリルと戦いましたが、オーディンは飲み込まれてしましました。しかし息子のヴィダルが口を引き裂いて父の仇を討ちました。 またトールはヨルムンガンドを倒しましたが、トールもまたヨルムンガンドの毒にやられて倒れてしまいました。チュールは地獄のガルム犬と戦って相打ちになって死にました。フレイはスルトルめがけて飛び掛かりましたが、以前ゲルドという巨人に求婚した際に宝剣を与えてしまった為、戦う武器がなくやられてしまいました。 ロキはヘイムダルいう神と戦って相打ちになって死にました。

そしてスルトルが巨大な火の剣を投げつけると全世界は火の海になって燃え上がり、ユグドラシルも炎に包まれ大地は海の底へ沈んでいきました。

<再生の世界>
一旦海に没した大地もやがて海中から浮かび上がります。最終戦争の生き残りの神は、バルドルやトールの息子モディとマグニ。ホッドミミルの森(ユグドラシル)に隠れて露をすすって生きのびたリーヴとリーヴスラシルという二人の人間は新しい人類の祖となりました。

■北欧の人たちの人生観

以下のオーディンの言葉が当時のヴァイキングの人生観を表していると考えられます。

・ 広く旅をして方々をめぐった者こそが分別を供えた知恵者である

・ 外に出たら、武器のある所から離れるな。いつ何時武器の必要があるか分からない

・ 信頼できない友を持ちながら、彼らから良いことを期待しようと思うなら、口先だけきれいごとを言って、心では欺き、ごまかしにはごまかしで報いるべし

・ 他人の財産や生命を奪おうと思う者は早起きしなければならない。寝ている人間は勝利を手に入れることは出来ない

・ 財産は滅び、身内も死に絶え、自分自身もやがては死ぬ。しかし決して滅びないのは自らの得た名声である

・ 女の愛を得ようとする者は、きれいごとを言って贈り物をし、女の美しさをほめよ。お世辞を言う者は首尾よくいく

■曜日の由来

火曜日(Tuesday:チュールの日)
水曜日(Wednesday:オーディンの日)
木曜日(Thursday:トールの日)
金曜日(Friday:フリッグの日)





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