トロイア戦争とアキレウス (ギリシャ神話)



政治思想, 哲学, 宗教, 神話

公開日:2025/4/30    

■トロイア戦争とトロイの木馬

ギリシャとアジアの境に位置する都市トロイアで、神々と英雄たちを巻き込んだ壮大な戦争が始まりました。 発端は、オリンポスでは人間の子ペーレウスとティタン族の娘テティスの婚儀の場で起こった「黄金の林檎」を巡る争いにありました。 争いの種を蒔いたのは、不和の女神エリス。宴に招かれなかったことに怒った彼女は、「最も美しい者へ」と刻まれた黄金の林檎を、宴の席に投げ入れたのです。 これをめぐり、美の女神アフロディーテ、知恵の女神アテナ、そして女神ヘラが互いに自分こそがふさわしいと主張しました。

審判役に選ばれたのは、トロイアの王子パリス。彼の前で三女神は競い合い、ヘラは世界を支配する力を、アテナはいかなる戦争にも勝利する力を、 アプロディーテは「世界一の美女」を与える約束をします。アフロディーテの約束に心を動かされたパリスは、彼女に林檎を渡し、最も美しい女神に選びました。 しかし、この「世界一の美女」はギリシャ王メネラオスの妃、スパルタの女王ヘレネだったのです。パリスはヘレネを連れ去りトロイアへと帰国します。 これに激怒したギリシャ諸国は、メネラオスの兄アガメムノンを筆頭に、英雄アキレウスやオデュッセウスなど、名だたる将たちを集め、大軍を率いてトロイアに遠征します。

こうして始まった戦争は、十年もの歳月にわたって続きました。神々もまた、それぞれの思惑と感情に従い、人間たちの戦いに干渉していきます。 英雄たちは次々と倒れ、アキレウスの死を経て、戦いは膠着状態に陥っていきました。

しかし、知将オデュッセウスが一つの策略を提案します。それは、巨大な木馬を造り、その中に兵を忍ばせ、あたかもギリシャ軍が退却したかのように見せかけるというものでした。 トロイアの人々は、これは神への供物だと信じ込み、城内へ木馬を運び入れます。その夜、祝宴に酔いしれるトロイアの民が眠りについた頃、木馬の中に隠れていたギリシャ兵たちが姿を現し、門を開け放ちました。 外では撤退したふりをしていたギリシャ軍が待ち構えており、一気に攻め込みます。こうして長きにわたった戦争は、ギリシャ軍の勝利によって幕を下ろしました。

■アキレウス

海の女神テティスは、そのあまりの美しさと神性ゆえに、神々の王ゼウスからも求愛されていました。 しかし神託によって「彼女が生む子は、父を超える力を持つ」と知らされると、神々は彼女を恐れ、彼女を人間の王ペレウスに嫁がせることにしました。 そしてテティスとペレウスの間に生まれたのが、後にトロイア戦争で活躍するアキレウスです。

テティスはこの子を不死身にしようと、冥界の川ステュクスの水に全身を浸しました。その際かかとをつまんでいたため、そこだけ水に触れず、彼の唯一の弱点となりました(「アキレス腱」の由来)。 成長したアキレウスは、ケンタウロス族の賢者ケイロンのもとで育ちました。

やがてトロイア戦争が勃発し、アキレウスはギリシャ側の一員として参戦します。 戦の途中、戦利品として得た愛妾のブリーセーイスを、ギリシャ軍の総大将アガメムノンに奪われたことに怒ったアキレウスは、戦場から身を引いてしまいます。 そのためギリシャ軍は劣勢に立たされ、アキレウスの親友パトロクロスが代わりに鎧を借りて戦場に出ることになります。

だが、パトロクロスはトロイア軍の英雄ヘクトールとの戦いに敗れ、命を落としてしまいます。 親友の死にアキレウスは深く嘆き、ヘクトールへの復讐のために出陣することを決心します。そして一騎打ちにてヘクトールを討ち取ります。 その後もアキレウスはヘクトールの亡骸を戦車で引き回すという行為に出ますが、後にヘクトールの父プリアモス王が涙ながらに亡骸の返還を願い出ると、アキレウスはその姿に心を打たれ、遺体を丁重に返します。

そして戦争も終盤に差しかかったころ、トロイア王子パリスが放った矢が、唯一の弱点であるかかと (アキレス腱)を射抜き、アキレウスは命を落としました。




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