伊坂幸太郎著『逆ソクラテス』の考察



読んだ本のこと

情報科学:00

ジャーナリズム:00

哲学:10

歴史:20

社会科学:30

自然科学:40

技術,工学:50

文学:90

公開日:2021/11/25    

■本の情報 
<作者> 伊坂幸太郎
<発行日> 2020年4月 (集英社)

■考察 ネタバレを含みます。
私の想像による各人物の相関関係を時系列でまとめました。断定できる情報が少なく、あくまでも私の想像なので間違っているかもしれません。カッコの中の数字は推定年齢です。



<解説>
私の推測の自信度の高いものから、その根拠を説明します。

① 家電量販店の店員
「逆ワシントン」の最後に出てくる家電量販店の店員は「アンスポーツマンライク」の不審人物であると思います。テレビに映っているバスケ選手(駿介)を見て感動しておりますが、 店員は駿介の知り合いではないとの記載があった(知り合いかと尋ねると、力強く否定した , p275)ので、駿介の知り合いではないが駿介と接点のある、不審人物だと思います。

② テレビに映っているプロ野球選手とそれを観ている人物
「逆ソクラテス」の冒頭にあるテレビ中継のプロ野球選手は、選手のとったアクション(両手で顔をこすり、ばしゃばしゃと洗う仕草, p8とp60)から草壁であることが分かります。 また、それを観ている人は久留米先生と思います。それは、"久留米先生がテレビを観ていたら、つらくてテレビを消しちゃうぜ"(p60)とのセリフと、実際にテレビを消した描写(p8)から。

③ 謙介の父は久留米?
テレビを観ていた久留米は「逆ワシントン」の謙介の父ではないかと思います。久留米が見ていたテレビは買ったばかり(p6)、また謙介の家でも新しくテレビを買っている。 しかし謙介の父は大阪に単身赴任中のため、謙介の家で買ったテレビを観れないはずですが、これは一時的に帰ってきていたか、単身赴任が終了して帰ってきたのではないかと思われます。

④ 謙介の母は高城かれん?
謙介の母は「スロウではない」の高城かれんではないかと思います。高城かれんは字がうまい(p84)のと、謙介の母は書写のお手伝いをしていた、また昔いじめられっ子だった?という謙介たちの想像から(p240,p241)。 更に、家電量販店の店員が真面目そうにポケットからぎっしり文字の書いた手帳を取り出して眺め始めている描写(p273)と(謙介の母親はそれをみてテレビの値引きをしなかった)、高城かれんがうまく走る研究を自分の手帳にぎっしり書いていた描写が重なるため。

⑤ 靖の父は安斎?
「逆ソクラテス」の安斎はどこからどう見てもチンピラの様になっていた(p62)のと、靖の父は髪が茶髪(p234)だということ。靖の父は再婚して靖の家に来たことと(p233)、安斎の苗字が変わったこと(p62)。つまり靖の母と結婚した時に、安斎の方が苗字を変えて靖の家に来たと考えられます。 もし靖の名字が安斎になったならば、それは小学校の間でも話題になるでしょうが、その情報が一切謙介の耳に入ってこなかったこと(p233)、表札を眺め記憶を辿る(p233)という表現から、表札は変わっていない、つまり苗字は変わっていないことを意味しているのだと考えられます。

更に、謙介たちがドローンで靖の家を覗こうとしていたことを聞き、歯を見せて「面白いこと考えるなぁ」と言っている(p263)が、安斎は絵を盗む事を考えるような悪戯心がある子供だったので、謙介たちの行動に共感したのではないか。

なお「アンスポーツマンライク」の三津桜の父親もヤンキーであったという記述(p173)があったことから、安斎は三津桜の父親ではないかという説もあるかと思いますが、時系列に合わないので、私は違うと思いました。

⑥ 潤の父は近藤修?
「スロウではない」の近藤修は「非オプティマス」の潤の父親ではないかと思います。近藤修は背が高く、学級委員を務め、僕たちにも優しく、見た目も悪くない(p70)。人生が順風満帆である描写がされていましたが、 そんな近藤修でも実は悩みを持っている、潤の父親という形で表現されているのではないかと思いました。また、体が大きく運動のできる潤の親だけあって、運動が得意そうだ(p115)という描写も、近藤修の特徴とも一致します。

⑦ 久保先生が紙袋から取り出そうとしたもの
「非オプティマス」の久保先生が潤の父親と会ったときに紙袋から何かを取り出そうとしましたが、それは何だったのでしょうか。私の完全な推測ですが、鉄砲だったのではないかと思います。 そしてその鉄砲はどういう訳か「アンスポーツマンライク」の不審人物の手に渡ったのではないかと思いました。これは、時系列的に二人の描かれている時期が重なるため、 何となく伊坂さんはそういう展開が好きそうという、私の勝手なイメージによるものです。

⑧ 渋谷亜矢と不審人物者の関係
「スロウではない」の渋谷亜矢と「アンスポーツマンライク」の不審人物は年の離れた兄弟ではないかと思います。不審人物の父親は権力者でありとても厳しかった(p202,203)。一方渋谷亜矢の親は何の仕事をしているかわからず、お金持ちの娘だったとしても不良上がりの両親の子供だったとしても違和感がなく(p72)、 さらに親の真似で厳しい(p87)という描写、更に、高城かれんのチームが一番になったときに渋谷亜矢の親が出てきて失格にさせた(p96)という事から、渋谷亜矢の親は権力者なのだろうと推定しました。従って同じ親なのではないかと思いました。

⑨ 渋谷亜矢は佐久間の母?
「逆ソクラテス」の佐久間の母親は、渋谷亜矢ではないかと思いました。学校のやり方によく口出しをしてくる(p6)、何でも自分が正しいと思い込んでいる感じがある(p26)という描写が、高城かれんのチームによく口を出してきた時の渋谷亜矢の人物像と重なります。時系列的にも佐久間の母親が渋谷亜矢だったとしても矛盾はありません。

⑩ 司の会社の得意先の知り合い
「スロウではない」に出てくる司の会社の得意先の知り合いが磯憲の教え子(p104)ということですが、これは「アンスポーツマンライク」の三津桜だと思います。磯憲の教え子で出てくるのは、歩、匠、駿介、剛央、三津桜ですが、歩は公務員、匠は医者、駿介はバスケ選手、剛央は先生で、 残る三津桜はアプリ制作会社を作ったとあるため、消去法的に三津桜であると思いました。

⑪ ゲームセンターの店員太田
駅前のゲームセンターの店員の太田は、他作品「残り全部バケーション」に出てくる人物と思われます。

■逆転した人物
敵は、先入観。世界をひっくり返せ!とあるように、登場時から大きく変わった人物がいます。

(1)不審人物
事件後、人生をやり直そうと努力している。本来は真面目な性格だったと思われる。

(2) 高城かれん
いじめっ子だった高城かれんが、逆にいじめっ子を許さないような人物に大きく変わりました。

(3) 久留米先生
常に自分が正しいと思い込んでおり、独特の威厳を持っていた久留米先生が「逆ワシントンでは」優しそうなお父さんに変わった。侮られていた人が評価を逆転させるといった内容のビデオを家族に勧めるという描写も。

(4) 近藤修
先述したとおり、順風満帆な人生を送るように思われた近藤修も、大人になって大きく苦しんでいます。

■嫌な人間に対する対応のしかた
三者三葉の考え方があり、何が正しいという事はないのだと思いました。ちなみにこれは著者の他作品の「重力ピエロ」に出てきた、主人公が勤めていた会社の社長の演説に似ているなと思いました。

<否定>:安斎
なんでも決めつけて偉そうなことを言ってくる相手には、「俺はそうは思わない」とゆっくりと、しっかり相手の頭に刻み込むように言う。例えばダサいとか情けないと言われたとしても、それはその人の主観でしかない。

<非干渉>:久保先生
わざと、周りの人に迷惑をかける誰かがいたらどうすればいいのだろうか。まず暴力でやめさせることは良くない。それは屈強な相手だったり、相手が権力者だった場合など暴力が通じない相手がいる。相手が取引相手の場合もある。 そうなった時、相手によって態度を変えるものほど格好悪いことはない。ではどうすればよいか?「可哀そうに」と思っておけばよい。どんな相手だろうが態度を変えずに親切に接していれば、評判が上がり、それがいずれ自分に返ってくる。 逆にそんな迷惑をかける人は評判が落ちて、いつか自分に返ってくる。

<救済>:磯憲
単に、あいつは悪人だから崖から突き落として、消してしまえってことはできない。犯人はいつか社会に出てくることの方が多い。同じ町で生きる可能性もある。ならば、できるだけ他の人が平和に暮らせる方法を考えたほうが良い。 あいつが幸せじゃないとこっちが困る。

<報復>:謙介の母
いじめは、いじめた側の人生を台無しにする。いじめられた側からのしっぺ返しがいつか来る。例えば、いじめていたことをばらされたり、仕事の取引相手になることもあるだろうし、結婚相手の知り合いになるかもしれない。もしかしたら、大人に大けがをして担ぎ込まれた救急病院の担当医がいじめていた相手になる可能性もある。 いじめのために、わざわざ自分の人生をハードモードにすることはない。

これは相手に嫌な行動をさせない為に言っているのだと思いますが、報復を許容している事にもなります。一度いじめ側の立場にあった高城かれんがここまで言うのは、ものすごい覚悟だと思いました。

■感想
初回読んだときにはそれほど各作品の繋がりがあるとは思いませんでしたが、読み返してみるとたくさんの繋がりがあることが分かり、2回目の読み応えも十分ありました。 一番印象に残ったのはやはり、安斎の「僕はそうは思わない」という言葉。確かにこの言葉で相手の言葉を無力化すると思いました。




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