坪井大輔著 『WHY BLOCK CHAIN』の感想



読んだ本のこと

情報科学:00

ジャーナリズム:00

哲学:10

歴史:20

社会科学:30

自然科学:40

技術,工学:50

文学:90

公開日:2020/3/20    

■本の情報
<作者> 坪井大輔
<発行日> 2019年7月 (翔泳社)

以下黒字が本の要約で、緑字が私の感想/コメントです。

■本の主旨
ブロックチェーンの本質は技術ではなくその思想にある。それはデータの管理者のいない社会をもたらす。現在はGAFA(google , amazon , facebook , apple)という巨大企業に世界中のデータが集まっており、実質的に管理されている状態である。 それはいわゆる中央集権型の世界であるが、ブロックチェーンはそれを打ち破り分散型の世界をもたらす可能性のある思想/技術であるという。

ブロックチェーンと言えば、すなわちビットコインであると思われるかもしれないが、イコールではない。ビットコインブームが下火になるに従い、ブロックチェーンは世の中から存在感を失ったように思われるが、それどころかいよいよ上昇気流に乗り始めている。 ブロックチェーン技術や活用の事例を紹介している。

■今後のITの進化
人をオンライン化させることが今後のITの進化の方向になるだろう。それはアップルウォッチのようなウェアラブルデバイスをより普及させ人の情報を得ていかに利用するかが企業の成功への道である。 これまでは普段の健常な人間から情報を得る事があまりできなかったので、そこからデータを取れればその企業は相当儲かる。 一方5Gの時代になり個人でできる事が増えるため、企業でしか出来ないことを売りにしていたビジネスは厳しくなる。例えば映画館など。また医療もオンライン化され、オンライン診断や遠隔医療が可能となる。

<IT業界のキーワード>
①IOT ②クラウド ③ブロックチェーン ④AI
これらは5G時代の4種の神器と呼ばれ、IOTでデータを取り、それをクラウドに保管、データはブロックチェーンで仕分けしてセキュリティを万全にして、必要なデータをAIによって活用する。

ITが既存産業に参入していく例として、Amazon Go(無人レジ)やメルカリがある。対して日本の物づくりは足かせになっており、IT産業へ出遅れている。 製造業を死なせてはならないという発想。既にあるものを扱いながら進化して世界に負けないようにするのは無理がある。 (文脈からメルカリは海外の企業なのかなと思ったが日本の企業でした。なのでIT業界で頑張っている企業もあるという事です)

■ブロックチェーンの技術
①暗号化技術 ②コンセンサスアルゴリズム ③P2P ④DCT(分散型台帳技術)

① データを箱(ブロック)につめて繋げる。前後の箱と繋げているので、中身を触ったら(改ざんしたら)それが解るようになっている。

② ブロックを生成するためのルール。箱に詰めるものを全員で確認する。たくさんの人が一斉にそのアルゴリズムを解こうと頑張り、一番早く解けた人が箱に詰め報酬をもらう事ができる。 2番手以降の人はそれが正しいかを確認する役割となる。これがいわゆるマイニングという作業になり、ビットコインブーム時にマイニング作業で稼ぐ人(マイナー)が話題になったと思います。

③ ②を全員確認するための作業。ピアツーピアと呼ばれる。昔winnyというアプリが流行り、大きな話題となった。これは扱ったファイルは問題だったが、テクノロジー的には素晴らしかった。

④ ブロックに詰め込んだ情報を管理している台帳をたくさんの人が所有する技術。

■ブロックチェーン活用のポイント、注意点
・ 一企業の一システムにおいてブロックチェーンを入れてもほぼメリットがなく、異なる企業間で協力体制を作るのに役に立つ。

・ 限られた参加者だけで作るブロックチェーンはプライベートブロックチェーンと呼ばれ、完全には移行できない時や責任を取る人がいないと困る場合など、 ある程度管理された状態で行う事ができる。

<大成功の例があまり聞こえてこない>
ブロックチェーンはまだビジネスとして成り立っておらず、実験ばかりの段階である。それは以下理由などから。

・これまでの技術で大きな問題なく動いてきたシステムをブロックチェーンで作り出す意味はない。
・法律は超えれない。不動産の例、いくら台帳上で不動産のデータを動かしても、実社会での手続きが必要ならブロックチェーンの意味がなくなる。法律を変える必要がある。

<ブロックチェーンに向かない事>
・ 1件あたりのデータが大きい場合
・ 特定のデータのみを検索してすぐに取り出したい場合
・ 管理対象が個体管理に向かない場合

■ブロックチェーン活用後の未来
・自律分散型組織(DAO)の社会の方向に向かっていく。
・コミュニティ内の価値を表すトークンが社会を作っていく可能性。例えば「○○する権利」など、リアルマネーでは表せない価値をトークンで表すことによってコミュニティが形成される。

これまでブロックチェーンといえば、「セキュリティが高くトレーサビリティに向くシステム」という点が前面に出てきたのに対して、分散型に近い社会・組織をトークンを軸として作っていくという話の流れになってきている。

<自律分散型組織・社会の難しい面>
以下の面から、強烈な格差社会になる可能性がある。
・放っておけば人の繋がり、横の繋がりが希薄な社会になっていき、良くも悪くも個々は孤立する。
・成功が定量化される一方、失敗も定量化されてしまう。

これらより、国のサポートと個々の自律を織り交ぜた状態にし、都市部と地方部など、地域の状態に応じてレギュレーション・ガバナンスの比率を変えていく社会を作るのが筆者の提案にある。

■ブロックチェーン活用事例
① 薬局での薬の在庫調整
 異なる薬局同士で所有している薬の情報を共有し、足りない所に融通し合う事で、期限切れとなって廃棄に至る薬を減らせる。

② テレビ視聴のネットワーク化
 視聴者の趣向に合わせた番組紹介やCMを流せるようになる。視聴者のメリットとしてはトークンをもらい、色々な場所で支払いに使えるようになる。または災害時の安否確認等に使える。

③ EV充電スタンドのネットワーク化
 どこのスタンドが利用可能かがすぐ分かるようになる。利用者は従来販売会社が発行しているポイントの代わりに、どこでも利用可能な共通のトークンを得る事ができる。

②③は一見ブロックチェーンが無くても出来そうに思われる。特に②は現在でもネットの広告で視聴者に合ったおすすめの広告を流すことが出来ているからである。 ③も例えば車の渋滞情報がリアルタイムに分かる様な技術が既にあるので、それをEVステーションの空き情報に変えただけの様に思われる。私の理解は、メリットはやはりこれまでより容易に 付加価値(トークン)を付ける事ができるという所である。①の方はトークンが無くても、資源の効率的な利用という意味で実利を享受できるのが解りやすい。

■感想
ブロックチェーンの思想や技術、活用例が非常に解りやすく説明されていた。私は今まで、この様な視点での社会の未来を考えたことがなかったので、新鮮な刺激となった。 筆者の言うとおり、ブロックチェーンはその技術の素晴らしさよりも、こうありたいという社会を実現するためのツールであり思想なのだという事がよく理解できた。

筆者は、異なる企業間で協力体制を作るときに効果を発揮するので、一つの企業だけではメリットはほぼ無く、その発想は捨てた方が良いとまで述べていた。 この時点で、ブロックチェーンを自分の業務に活用できないか期待し本を開いた多くのサラリーマンは意気消沈し、ブロックチェーンは自分事ではなく、社会の行く末を見守る傍観者になったことであろう。 私もその一人であったが、やはりそれだけではこの本を読んだ旨味が半分は消失してしまうので、何とか自業務に活用できないか考えた。

ヒントは、ブロックチェーンは思想であるいう事に立ち返れば、例え大規模でなくても部門間の壁を超えるのには役に立つ筈で、業務プロセスの改善に使えると思った。 ブロックチェーンのセキュリティ堅牢さを期待してではなく、お金の価値で表せない事をトークンに変えるという点がやはり鍵である。




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