【感想】 「屍蘭 -新宿鮫Ⅲ-」大沢 在昌 著



読んだ本のこと

情報科学:00

ジャーナリズム:00

哲学:10

歴史:20

社会科学:30

自然科学:40

技術,工学:50

産業:60

文学:90

公開日:2025/5/24    

■本、著者の情報
<作者>大沢 在昌
<発行日>1999年8月
<出版社>(株) 光文社

■登場人物

・鮫島:主人公。36、7歳。新宿署の防犯課に所属の警部。汚職、殺人の容疑の罠に嵌められ、辞職寸前まで追い込まれる。

・晶:鮫島の恋人。鮫島より十才以上年下。ロックバンド「フーズ・ハニイ」のボーカル。遂にデビューを果たした。

・島岡ふみ枝:釜石クリニックの看護婦、そして島岡企画という会社のオーナー。綾香のために大量殺人を行った。最後は自身が所持していた毒で自殺した。

・藤崎綾香:須藤家の養子として迎えられ、姉の須藤あかり含む須藤家に酷い仕打ちを受けた過去がある。釜石クリニックの行ってきた胎児売買などを通じて多大な資産を得る。

・須藤あかり:腎臓移植の手前で、島岡ふみ枝の仕業でトラックにはねられ植物人間になり、現在も眠ったままになっている。


■感想

新宿鮫シリーズ第3作。前作のような派手なアクションシーンはないものの、今作では鮫島が敵の策略に翻弄され、窮地に追い込まれていく。 その展開に引き込まれ、「いったいどんなどんでん返しでこの状況を打開するのか」と夢中になって読み進めた。 しかし、鮫島自身の行動が何か決定的な事象を引き起こすわけではなく、結果として仲間たちによって助けられる形となり、やや拍子抜けしてしまった。 また物語の展開において違和感を覚えた点が三つある。

一点目は、鮫島に対する詐欺容疑のタレコミを警察があまりにもあっさりと信じた点である。 もし光塚や綾香に警察内部に強力なコネがあり、警察側にも鮫島を辞職に追い込みたいという意図があるのなら納得できる。 しかし二人がそのような影響力を持っている描写は特になく、また警察側も罠にかけられて警察官を失うことの重大さを十分に認識しており、 警察にとっても今回の件は「はめられた」と同義であり、むしろ鮫島を守る方向に動いていた。それにもかかわらず、なぜタレコミを真に受けるような対応になったのか説得力に欠けた。

二点目は、綾香と鮫島が対峙した場面で、綾香がなぜあれほど鮫島を恐れたのかが理解しがたかったことである。 確かに鮫島には人を圧倒する雰囲気があるが、状況的には綾香の立場が圧倒的に優位だった。彼女が冷静さを保っていれば、鮫島に負ける事は無かったはずだ。

三点目は、ふみ枝がなぜそこまで綾香に肩入れするのかという点である。子を持たなかった彼女は、子どもの頃の綾香の絶望した表情を見て以来、自身の子どもの代わりに綾香に出会うことができたのだと思いこむようになった。 しかし、たとえ実の親子であっても子どものためにそこまで容易く人を殺めるとは考えにくい。 ふみ枝の異常性について掘り下げを行い、彼女がなぜここまで綾香に執着するのかが明らかになれば、物語の説得力が増したのではないだろうか。 また個人的には、ふみ枝には単なる自殺ではなく、例えば綾香に裏切られて絶望して死ぬなど、もっと自身の罪に対する報いを受けて欲しかった。

全体として、物語の雰囲気や心理描写には見応えがある一方で、いくつかの展開に説得力を欠く部分があり、読後感に若干の引っかかりが残った。




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読んだ本のこと

情報科学:00

ジャーナリズム:00

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歴史:20

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