【感想】橘 玲 著『バカと無知』



読んだ本のこと

情報科学:00

ジャーナリズム:00

哲学:10

歴史:20

社会科学:30

自然科学:40

技術,工学:50

文学:90

公開日:2023/7/25    

■本の情報 
<作者> 橘 玲
<発行日> 2022年10月 (新潮新書)

ネタバレを含みます。緑字が私の感想/コメントです。

■感想 

結局著者の主張を私なりに要約すると『人間はいかに理性的に行動しようとしても、人類の長い間の生存競争の結果獲得した特性に縛られ、理性的な行動がとることができない。それは、理性的な行動ではなくても生存を有利に働かせるためには合理的だったからである。ただし現代においてはその特性は不必要なものがあり、それがこの社会を生きにくくさせている要因である』 という事だと理解しました。

様々な事例を引用しており一つ一つの事象については説得力のある物でしたが、著者オリジナルの考察ではなく、人間行動学、心理学の寄せ集め集という位置づけとして考えたらよいと思います。 タイトルである『バカと無知』に関して、ダニング・クルーガー効果(「バカの問題は自分がバカであることに気が付かない」)の解釈を発展させ、「バカと話をしたら、頭の良い人もバカの考えに引きずられる」と点が良かったと思います。

なお本書は、社会脳仮説の裏付けをデータや事例を用いて説明している所が「われわれはなぜ嘘つきで自信過剰でお人好しなのか」と似ていると思いました。

<バカと無知の違い>

バカは、思慮が浅いこと、物事を考える能力がない人。無知は、知識がないことです。従って、知識があってもそれを十分に活かすことができない人や、自分が無知であることを知らない人がバカで、無知でも思慮が深い人、自分が無知であることを知っている人はバカとは言いません。 ここでダニング・クルーガー効果に陥る人はバカの方で、無知な人ではありません。

■印象に残ったこと 

・人間は、目立ち過ぎると反感を買い共同体から放逐されて死んでしまう。目立たないと性愛のパートナーを獲得できず子孫を残せない。という生存に関するトレードオフを抱えている。

・これまでマイノリティはきびしい差別に苦しんできたのだから、リベラルな社会を目指す運動が総体として人々の幸福度を大きく引き上げたことは間違いない。リベラル化は疑いもなく「よいこと」だ。
行き過ぎたリベラル化は、社会を分断させ、社会全体の幸福度を低下させているという説もある。全ての人に差別がない社会の実現は「いいこと」だが、その社会に向けた実現手段は正しくないと言わざるを得ない。

・ダニング・クルーガー効果は、生存競争の歴史から説明できると考える。つまり自分を過大な人物に見せないと淘汰されるため。

・集合知は、一定の能力を持った人同士ではないと役に立たず、そこに能力の低い者が加わると、能力の低い者の間違った考えに引きずられてしまう。これを平均効果という。 そのため民主的な話し合いは役に立たない場合が多く、優秀な個人の判断に従った方がよい選択ができる場合がある。選挙においても無知な投票者は参加しない方がよい。
選挙の投票率の低さを問題視して、誰でも手軽に投票できる様ネット投票の仕組みを推進する動きもあるが、これは無知な人が参加してくるという状態になるので好ましくない。 投票の仕組みが面倒な方が本当に興味のある人だけが参加するので良い。

・言語による意見を交わすと能力の低い者の意見に引きずられるため、言語ではない手法(自分の意見の自信度を5段階で伝える等)で意見を交わせば能力の低い者の意見に引きずられることがなくなる。 それは相手の自尊心が傷つかなくなるからである。

・アメリカ社会のマジョリティは白人だが、知識社会に適応した「リベラル(高学歴)」と市場競争から脱落して仕事と尊厳を失った「保守派(ワーキングクラス)」に分断されている。
リベラルは高学歴で、保守派はワーキングクラスという二軸で分類するとは、著者は極めて偏見に満ちた人であると感じました。

・子供を褒めて伸ばすのは逆効果になる場合がある。何故なら、褒めるのは報酬なので、結果を出すより先に報酬を受け取るとやる気を低減させるから。 褒め方、褒める内容の工夫によって解決できるのではないかと思いました

・愛は地球を救わない。オキシトシンはより身内びいきになり、外の集団を排除するようになる。

・アメリカ人に妄想に取りつかれる人が多いのは、ヨーロッパからの迫害を逃れた妄想的な人たちが作った国だから。という説がある。

・過去にトラウマ的出来事があった人が大人になってPTSDを発症するのではなく、もともとトラウマ体験を持ちやすい人が大人になったときにPTSDを発症する。





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