【感想】細谷 功 著『アナロジー思考』



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公開日:2023/3/20    

■本の情報 
<作者> 細谷 功
<発行日> 2011年8月 (東洋経済新報社)

ネタバレを含みます。緑字が私の感想/コメントです。

■感想 
物事を抽象化したり他の領域から考え方を持ってくるという事は、仕事上でも普段から行っていましたが、 それがアナロジー思考という考え方で定義づけられている事を初めて知り、目から鱗が落ちる思いをしました。 自身の会社でもこのような思考法について教わったことが無く、職場の同僚にアナロジー思考という言葉について知っているか確認したところ(n=5)、 全員知らなかったので、社内でもこういった教育があっても良いなと思いました (TOC:Theory Of Constraintsやタグチメソッドなどの教育は過去にありました)。

なおアナロジーはギリシア語のanalogiaに由来している事からその歴史は古く、古代ギリシャ哲学者アリストテレスの著書「分析論後書」の中で、アナロジーを用いた論理的推論を行う手法について述べています。

また本書ではアナロジー思考はアブダクションの一種とされていますが、その違いは、 アナロジー思考は既知の知識を拡張するための手法で、アブダクションは新しい知識を発見するための手法であると私は考えます。

「アナロジー思考が最も貢献するのは科学、抽象化能力は"理系的思考"の最たるもの」は本当か
本書では、上記の様に述べておりますが、私はこの点について2点意見があります。

一点目は、アナロジー思考が貢献したのは科学だけではないという事です。
私は、自分の仕事でよいのでその仕事の本質を見極める事ができたなら、他の仕事についてもその本質が分かるようになると考えており、 その理由は、結局その本質とは人間関係や社会の構造を知ることにあると考えているからです。 (「人間の脳が大きく発達し高度な知能を得たのは、複雑な社会的環境へ適応するために進化した」という社会脳仮説もその根拠の一つ)

二点目は、抽象化能力は「理系的思考」だとして、かといって文系の人より理系の人が抽象化能力に長けている訳ではないと思いました。 むしろ理系(技術系)の方が具体的事象に目がいきがちになるので、文系の方が抽象化能力に長けているのではないかと思いました (私は理系なのですが、人に説明するのが苦手な人も多いです)。 そうだとすると、科学の分野がアナロジー思考を必要としているのにも関わらず、その分野にアナロジー思考ができる人が少ないというジレンマを抱えていることになり、 文系の領域からそれを解決する何かしらのアイデアを持ってくるという、アナロジー思考ができるのではないかと思いました。


■要約 

<アナロジー思考とは>

アナロジー思考とは、2つの異なるものの間に構造的類似性があると考え、一方の構造を「借りてきて」、もう一方の構造に「組み合わせる」思考方法のことで、 新たなアイデア、概念の創出に役立つ思考方法である。この時できるだけ遠い分野、進んでいる分野から借りてくるのが、アイデア創出により効果的となる。

メタファー(隠喩)やアブダクションもアナロジー思考の一種である。 論理的な演繹的推論ではなく、あくまでの一つの仮説を生み出すための推論に過ぎず、必ずしも結果の妥当性を100%保証するものではない。 その為、論理的な飛躍を生んでしまう危険性を持っている。

アナロジー思考は「比例関係の穴埋め問題」とも考えることができる。卑近な例で説明すると「牛乳:白」 ならば「トマトジュース:○○」とすると、この場合○○に当てはまるのは「赤」である。

<構造的類似点と表面的類似点の違い>

両者の違いは謎かけの例で理解できる。下記①は表面的類似点で、②は構造的類似点に近い。 借りてくるのはあくまで構造的類似点であって、表面的類似点を借りてきても創造的価値は生み出さず、せいぜい「おやじギャグ」レベルに留まってしまう。

① 台風と掛けて鍋と解く。その心は? ⇒ ぞうすい(増水/雑炊)したりするんです

② のれんと掛けてセールスマンと解く。その心は? ⇒ 外に出てれば営業中

<アナロジー思考には抽象化能力が必要>

抽象化とは①一般化、②単純化、③構造化することである。より抽象化するほど「遠くから」借りられる。重要なのは抽象化のレベルを適切にした上で、共通点だけではなく相違点も考慮すること。 共通点が過大認識された状態になると「みんな一緒ですよね」となり、相違点が過大認識された状態になると「この世界は特殊ですから」となる。

抽象化思考が得意な人は、(1)図解してシンプルに表現する、(2)極論して二項対立で考える、(3)例え話が的確である、などがある。 抽象化する事で見えなくなる本質もあるが、抽象化することで今まで気づかなかった本質が見えてくることもある。 「具象は問題を創造し、抽象は問題を解決する」あるいは「尖った具体的事実と、抽象化で構造を見抜く力」という、抽象と具象の両輪が必要。

<アナロジー思考のビジネスへの応用>

アナロジー思考は「自分の理解」「他人への説明」「アイデア創出」のために使われる。 ビジネスの基本は偏在を見つけて解消することであるが、ビジネスには「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」の流れがあり、 それらの流れを構造としてとらえることで、他業種から借りてくることも可能となる。

<属性と構造の関係>
右下の、属性は異なるが構造が似ている領域に宝の山が眠っている。 左下は、同業他社に見られる領域で、常に同業との横並びや欧米先進企業を気にしながら発展してきた日本企業であるが、 環境変化が激しく先が見えない現在では、同業他社の領域と思っている事例は実は「おやじギャグ」領域に入っている可能性がある。 つまり表面的に売っている商品が似ていても、その背景にあるビジネスモデルや社会構造が実はその模倣の対象とは大きく異なっている可能性がある。 (例えば新興国への商品輸出にその可能性が考えられる)(P104より)


また、事業特性から業界の類似性を見ることができる。(固定費型vs変動費型, フロービジネスvsストックビジネス, 下請け構造の複雑さ, 見込み生産型vs受注生産型)

<アナロジー思考を鍛えるために>

・なるべく種類の違う経験が必要、そして遊びが重要

・実践的トレーニングは、具体的であるが故に個別の事象にそれぞれ対応しなければならなず、応用が利きにくく陳腐化しやすい

・常に全ての事象を自分の関心事にする。その為には常にアンテナを張っている事が重要。仕事上のアイデアに困っている時や、 何らかの壁にぶち当たっている時に、何かを見て「偶然」考えがひらめく事があるが、それは必ずしも「偶然」ではない

・これは特殊なケースだと考えた瞬間に思考は停止する

・ある経験をしたときに、それを抽象化したレベルで記憶する


<アナロジー思考の使用上の注意>

・アナロジーは純粋な論理的な演繹ではないため、結論の根拠とするには危険な場面がある

・アナロジーと詭弁は紙一重

・新しい仮説を立てるのに役立つが、立てた仮説を検証するものではない

・誰もが経験したこともない様な新しい世界に関して、アナロジーは通用しにくいが「過去に全く新しい概念が出てきた場合にどうだったか」を考えることで、アナロジーは役立つ場合もある


<その他 印象に残ったこと>

・個人の体験は生々しさがあるが範囲は狭い、他人の体験は生々しさに欠けるが範囲は広い

・「説明する」ことの利点は単に知的好奇心を満たすだけではなく「応用が利く」ようになること

・フランスの歴史家 ジャック・アタリは「過去の歴史の構造を把握すると、数十年先の未来の歴史も予測できる」としている

・金融商品は抽象化とアナロジーの宝庫

・ビジネスにおける組織としての企業活動と、個人の活動もお互いから学ぶことができる

・多様な知識、経験があっても、アナロジーが無ければ単なる雑学博士、あるいは狭小な専門家になってしまう

・「即効性のなさそうな」本ほど役に立つ




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