呉座勇一著『陰謀の日本中世史』の感想



読んだ本のこと

情報科学:00

ジャーナリズム:00

哲学:10

歴史:20

社会科学:30

自然科学:40

技術,工学:50

文学:90

公開日:2020/11/23    

■本の情報 
<作者> 呉座勇一
<発行日> 2018年3月 (角川新書)

■感想 ネタバレを含みます。
<バックグラウンド>
 呉座勇一氏は日本の歴史学者で、前著「応仁の乱」(2016)は47万部のベストセラーとなりました。どちらも読んだ感想としては、 歴史学者にとってはこれが当たり前のレベルなのかもしれませんが、日本の歴史に関してとても深い知識がある方だと感じました。 ただし、歴史に関してある程度の知識を持っていないと、理解するのは難しいと思いました。高校レベルの知識でも厳しいと思います。

一方で、日本史に関してアマチュアの人をかなり見下していると思いました。本著では「研究機関に籍を置く研究者が偉く、それ以外の研究者は問題外であるといいたいのではなく、陰謀の研究を低級だと見下している」と、 見下しているのは人ではなく研究対象だと言及していますが、もし研究機関に属する人と属していない人を本当に同列に見ているならば「属していない人が研究したもの」という言い方にはならないと思います。

また本質的な部分ではないですが、右派の人も見下している表現がありました。以下が原文です。

「右派が稚拙な陰謀論に引っかかる様を、左派の知識人は揶揄嘲笑しがちである。けれども、頭が悪いから陰謀論を信じてしまうとは、必ずしも言えない。教養があるインテリが陰謀論に騙される例は枚挙に暇ない」

この表現は"右派=頭が悪い" という事になり、右派をも見下していると捉えられる。そして自身は左派かどうかは定かではないが少なくても右派ではない、インテリ派の部類に属すると認識していると思われます。

<百田尚樹さんとの論争>
百田尚樹著「日本国紀」(2018年11月)に対して痛烈な批判を同年12月に行い、そこから批判の対象が井沢元彦氏までに及び、 井沢元彦氏の呉座勇一氏に対する公開質問状が出されるまでに至りました。他からも日本国紀には様々な意見がありますが、 批判の仕方として、どこが間違っているかを指摘するのではなく、相手への侮辱や、とにかくダメだ的な批評では生産的な事にはならないと思いました。 それができないなら批評せず無視するべきと思います。

<陰謀論について>
呉座氏が「陰謀の日本中世史」を書くに至った理由は、根拠に乏しい陰謀論やトンデモ説が世の中には蔓延っていて、それが社会的影響を持ってきたり、それが通説と認識されることを憂慮しているからとしています。 歴史に素人な私からしたら、陰謀論は娯楽として扱っており本気で信じている人はごく少数であるということ、一方で歴史認識というのは研究が進むと共に変わっていく事が当たり前で、 今現在プロの歴史研究者が言っている事が真実とも限らないとも認識しているので、「こういう可能性も残されている」というレベルで語っているだけのことなので、そこと同じ土俵に立たなくても良いのではなないでしょうか。

<陰謀論の特徴>
呉座氏は陰謀論の特徴を以下の様に述べております。

 ① 因果関係の単純明快すぎる説明
 ② 論理の飛躍
 ③ 結果から逆行して原因を引き出す

また人が陰謀論を信じる理由を、単純明快で分かりやすく、それでいて「歴史の真実を」知っているという優越感に浸れるからであるとしています。 私は、上述した様に本気で陰謀論を信じていて、それ「歴史の真実」を知っていると声高に言う人が小数なだけであって、それを「人々は」「一般人は」という括りで説明することこそが 物事を単純化していると思います。「人々が」本気で陰謀論を信じているか否かを明らかにするためには、大規模なアンケートを取るなどして客観性のあるデータで示されるのが良いかと思います。

また陰謀論が後を絶たないのは歴史学会にも責任があり、数々の陰謀論を一笑に付して黙殺するのが学会の常識であるとしてきたために、 陰謀論が社会的影響を持ってしまったとし、その為に誰かが猫の首に鈴をつけなければならないとしています。 私は歴史学会に責任があるとしたら、今の教科書が内容が左側に偏りすぎている事を放置しすぎたことだと思います。 今の教科書には誤りはないのかもしれませんが、一側面のことしか書かれていない。その結果、反動として田母神氏の自虐史観論や、百田尚樹氏の日本国紀に繋がっているという側面もあると思います。

<陰謀論の功績>
これは私の意見ですが、陰謀論を知ることで更に深い知識を自分で得たいという動機に繋がり、歴史を知るきっかけを与えております。 呉座氏が言及するように因果関係が単純明快すぎるため、結果的に多くの人が歴史を深く知る事になります。これは大きな功績であると思います。




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情報科学:00

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