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■本、著者の情報
<作者>宮部 みゆき
<発行日>1998年6月
<出版社>(株) 朝日新聞社
■登場人物関係図

■感想
よくあるミステリー小説のように探偵や刑事が謎を解いていくのではなく、事件に関わった人々の証言を積み重ねながら真相に迫るというスタイルが斬新で、まるでドキュメンタリーを読んでいるようなリアリティがありました。
ただ、謎が解けたときの爽快感やどんでん返しがなく、物語の大半が事件を振り返る回顧録として描かれているため、「結末はどうなるのか?」という期待感が薄かったのも事実です。
本作のテーマは、バブル崩壊後の住宅問題を背景にした「家族のつながり」です。事件に関わる人々の人生が細かく描かれ、それぞれの行動に至る「理由」が丁寧に掘り下げられていました。
しかし、その一方で、物語が冗長になっていると強く感じました。特に気になったのは、本筋とは直接関係のない脇役の人生が詳しく描かれているにもかかわらず、最重要人物の一人のはずの八代祐司が殺人を犯した「理由」については深く掘り下げられていない点です。
彼がどのような人生を歩み、何を考えていたのかがほとんど語られないため、「八代祐司もある意味、社会の被害者だった」と同情することはできず、単に特異な性格を持った人物だったという印象しか残りませんでした。
これはドキュメンタリー形式の弊害かもしれません。死者の証言がない以上、彼の内面を直接知ることはできないからです。
もう一点気になったのは、綾子のその後についての描写が不足していたことです。彼女がどのような刑罰を受け、その後の人生をどう歩んだのか――再出発できたのかどうか――といった点が語られていなかったので、
読後にスッキリとした納得感を得られず、もやもやした気持ちが残ってしまったのが残念でした。
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