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■本、著者の情報
<作者>ロバート・A・ハインライン, 小尾 芙佐 訳
<原題>The Door into Summer
<出版年>2009年8月, 原作:1957年
<出版社>早川書房
■主な登場人物
・ダニエル・ブーン・デイヴィス (ダン,ダニー):主人公。発明家。父は北朝鮮で、母と妹は六週間戦争で水爆で亡くなる
・ペトロニウス (ピート):ダンの愛猫。オス
・マイルズ・ジェントリイ:ダンの親友。ダンと一緒に会社を興すも、ダンと対立し裏切る。ダンを追い出して二年後に亡くなる
・ベリンダ・ダーキン (ベル):ダンと婚約するも、マイルズと一緒にダンを裏切る。しかしその後転落の人生を送る
・フレドリカ・ヴァージニア・ジェントリイ (リッキー):マイルズの義理の娘。ダンの事を慕っており、最後にはダンと結婚する
・ヒューバート・トウィッチェル:2000年での大学教授。タイムマシンを発明した
・サットン夫妻:ダンが過去に舞い戻るところを目撃した人物。ダンはこの夫妻に自身の発明を託す
■あらすじ
1. 裏切りと絶望
六週間戦争が始まる少し前の冬。かつてダンと愛猫ピートは、コネチカットの古い農家に住んでいた。
家には11の扉があったが、雪を嫌うピートは、どの扉を開けても外が冬だと知ると、「次の扉なら夏につながっているはずだ」と信じて、何度も開けさせた。
そして1970年12月3日、ロサンゼルス。心に深い冬を抱えたダンもまた、「夏への扉」を探していた。
親友マイルズと恋人ベルの裏切りにより、すべてを失った彼は、彼らへの消極的な抵抗として、30年間の冷凍睡眠(コールドスリープ)を決意する。
時は少し遡る。技術者のダンは、経営に長けたマイルズと会社を設立した。ダンが開発、マイルズが経営を担う理想的な関係だった。
マイルズの義娘リッキーは、ダンとピートを慕い、「大人になったらダンと結婚してピートの世話をする」と語る無邪気な少女だった。
やがてダンの開発した家事用ロボットが大ヒット。法人化の際、事務員として雇ったベルを役員に迎え、ダンは技術者としての自由を守るため株の過半数を保持する。
しかしベルと恋人関係になったことが運命を狂わせる。彼女に婚約指輪の代わりとして株を譲渡してしまったのだ。
1970年11月。経営方針を巡って対立したマイルズとベルは結託し、株主総会でダンを追放。愛する女性と親友に裏切られ、ダンは会社も発明も失った。
冷凍睡眠の直前、彼は戦う決意を固めマイルズの家へ向かう。しかし返り討ちに遭い、ベルに薬物で自由を奪われたまま、強制的に冷凍睡眠へ送られてしまう。
2. 30年後の目覚めと謎
西暦2000年。目覚めたダンを待っていたのは、無一文の現実だった。
資産は保険会社に預けていたが、その会社は破綻していた。会社も地位も、そしてピートも失われていた。
やむなくダンは、かつて自分が創業した会社(おそうじガール社)に一社員として再就職する。
やがてベルと再会するが、彼女は往年の面影を失い、ダニエルもすでに死んでいることを知る。復讐の意味さえ消え失せる。
そんなある日、最新の製図機が自分がかつて構想していたものと酷似していることに気づく。
特許権者の名は「D・B・デイヴィス」。だが自分には発明した記憶がない。
そのことを同僚チャックに相談すると、ダンはチャックからタイムマシンの存在を聞かされる。
一方でリッキーの行方を探すうち、彼女もまた冷凍睡眠を選び、最近目覚めたばかりだと知る。
再会を試みるが、彼女がすでに結婚していると聞き、会うことを断念する。
そしてダンは決意する。すべての謎を解くため、タイムマシンの発明者トウィッチェル博士を訪ね、1970年へと跳んだ。
3. 過去の書き換えと真の「夏」
1970年5月。過去に到着したダンは、サットン夫妻の助けを借り、未来の知識をもとに製図機と新型ロボットを完成させる。
未来で見た製図機は、やはり自分自身の発明だったのだ。それらを信頼できるジョン・サットンに託し、自らの足跡を歴史に刻む。
そして12月3日の運命の夜。
拘束されている「過去の自分」の裏側で、ダンはマイルズの家からピートを救出し、キャンプ地で幼いリッキーと再会する。
「21歳になっても僕に会いたければ、冷凍睡眠においで」。そう約束を交わし株を彼女に託すと、ダンは再びピートと共に眠りについた。
4. 結末
西暦2001年。二度目の目覚め。
ダンは約束を守り冷凍睡眠から目覚めたリッキーを迎えに行く。
二人はピートを介添人に結婚し、ダンは自分の設計思想を貫いた工業会社の社長になる。
小さくとも幸福な発明家としての人生が始まる。
老いたピートは今日も家中の扉を開けて回る。どれか一つは必ず「夏への扉」につながっていると信じて。
そしてダンは思う。きっとピートは正しいのだと。
■感想
本作は現在ではよく見られるタイムトラベル作品の構造を持っている。
しかしそれを1950年代に描いた点は驚嘆に値する。むしろ本作こそが、後のタイムトラベル作品の原型の一つになったのではないかと感じた。
もっとも、タイムトラベルを扱う物語には避けがたい問題がある。
いわゆる「因果の自己循環(ブートストラップ・パラドックス)」である。本書にもそれが見られる。
未来の自分が、過去の自分が考案したアイデアを知り、それを過去に持ち込むことで発明を完成させる。
ではそのアイデアは、そもそも誰が最初にゼロから創出したのか。起源が宙吊りになっている点は論理的には説明不能である。
さらに、同一時間軸上に「自分が二人存在する」問題も生じる。
未来から来たダンが、過去の自分が行うはずだった冷凍睡眠を肩代わりする構図になっているが、そうなると本来の時間線における過去のダンはどのようにして冷凍睡眠に入ったのかという疑問が残る。
加えて、本作ではコールドスリープという仮想科学技術に加え、タイムトラベルという別種の超科学が導入される。
物語上の飛躍が二重に存在するため、SF的前提は一つに絞った方が、より緊密な構造になったのではないかとも感じた。
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