【感想】ジャレド・ダイアモンド著『銃・病原菌・鉄』



読んだ本のこと

情報科学:00

ジャーナリズム:00

哲学:10

歴史:20

社会科学:30

自然科学:40

技術,工学:50

文学:90

公開日:2023/1/17    

■本の情報 
<作者> ジャレド・ダイアモンド, 倉骨 彰=訳
<発行日> 2000年10月 (株式会社 草思社)

ネタバレを含みます。緑字が私の感想/コメントです。

■感想 
人類の歴史として最後の氷河期を約1万年前に終えてから現在に至るまで、なぜこれほどの世界の地域格差を生み出したかについて 大くの事例やデータをもとに説明されており、納得できる部分も多くあったが、一方で明らかにおかしいと感じたところもあった。 これが2023年現在からの視点であって、当時の知見からでは仕方がないと言えるかといったら、そうでもないと思われる。

本書の問題提起は「ヨーロッパ人は、オーストラリア、南北アメリカの原住民を殺戮しその土地を奪ったり、アフリカ人を奴隷としてきたが、なぜその逆は起きなかったのか。 それら原住民がなぜユーラシア大陸に進出してこなかったのか」ということだが、著者は「もし原住民も銃と鉄を作り出していたら侵略と殺戮を行っていた」という誤っているであろう前提を持っている様に見受けられる。

ヨーロッパ人が他に先駆け銃や鉄を持つことができた理由は納得いくものであったが「銃や鉄を先にもてた西洋人が侵略と殺戮を起こすのは仕方のないこと」「病原菌によって原住民が相当数死亡したのも仕方のないこと」 という西洋人視点の開き直りをするのではなく(そもそも病原菌は原住民が絶滅しかけた一因ではあるが、本質的な原因は西洋人による虐殺である)、 本文でくどいくらい多用していた「なぜ~なのか?」という問いかけを「銃や鉄を手にしたヨーロッパ人が恐ろしい侵略と殺戮を起こしてしまった」ことに対して向ける事ができたならば、 その要因は地理的要因に加え、その国の成り立ちや文化や宗教などについても考慮すべきだったことに気が付けただろう。

また著者は人種差別はあってはならないという旨の発言をしながらも、西洋人と西洋では原始的と考えられているニューギニア人たちとは知的能力に差はなく、「平均的に見て彼らの方が西洋人よりも知的であると感じた」、あるいは、 「知的能力ではニューギニア人は西洋人よりもおそらく遺伝的に優れていると思われる」と述べており、それこそが差別的な発想ではないかと思う。 うがった見方をすれば、根底では西洋人の方が優れていると思いつつも、自分は差別していないという主張をするために、単にニューギニア人を持ち上げた発言の様にもみえる。

更に、日本に対する認識が大きく異なっている。例えば以下主張は、日本人ならば誰だって間違っていると思うだろう。 漢字の使用を不便と感じつつも、社会的ステータスのために漢字を使っている日本人はいない。

日本人が、効率のよいアルファベットやカナ文字ではなく、書くのが大変な感じを優先して使うのも、漢字の社会的ステータスが高いからである。

中国文化の威光は、日本や朝鮮半島では依然として大きく、日本は、日本語の話し言葉を表すには問題がある中国発祥の文字の使用をいまだにやめようとしていない


また、2005年版追加章では"Who are the Japanese?"という日本に関する章が追加されているが、ここでも表面的なことしか述べられていない。 日本の歴史がうまく紐解かれない理由は、日本人と韓国がお互いを嫌いあっており、両国の歴史認識の違いが平行線を辿っているからであるというが、それならば客観的な視点で日本と朝鮮半島の歴史を深く紐解くことにページを割くべきだったと思う。 言っておくが著者が述べているような事柄、例えば弥生時代に大陸側から人が流入して縄文人と交じり合ったという事は日本人なら周知の事実であり、あくまでも前提なのであって、ここで私が特筆すべきだと思うことは、 大陸から流入した人と縄文人との交わりは、西洋人が繰り返したような一方的な殺戮によるものではなく、ほとんど平和的に行われたということである(もちろん争いがゼロだった訳ではない)。この事実をどのようにとらえているか見解を聞きたかった。

■解説 
本書の問題提起である「なぜヨーロッパ人は、オーストラリア、南北アメリカを支配することができて、その逆は起きなかったのか」に対する著者の見解を簡潔に述べると、次のようなものである。 文明がユーラシア大陸でいち早く発達したと理由はこの論理でおおよそ納得できる。

直接の要因は、銃・病原菌・鉄によって彼らを倒すことができたという事であるが、それは全て環境的な要因に依存しており、生物学的な差異によるものではない (平たく言うと偶然だった)。究極の要因は具体的には以下が考えられる。

① ユーラシア大陸は東西に長く、同じ気候帯の土地が広大だったため、種の分散を容易にし、人的交流が活発に行われた。

② ①によって食料の生産に適した植物(小麦)が多くうまれ、また家畜に適した動物がユーラシア大陸には揃っていた為、いち早く農耕を開始し文明の発達を促進できた。

③ 家畜を育てることによって、病原菌への体制を強める事ができた。

④ 人類がアフリカで誕生して各大陸に移動するまでに時間差があり、農耕開始できるタイミングがユーラシア大陸は早かった。


年表は以下のとおり。(私の補足が入ってます)



<その他 印象に残ったこと>

・農耕を覚えたとしても、その地域の事情で狩猟に戻る場合もある。(狩猟の方が多くの食料を獲得できる場合など)

・アフリカの大型動物が家畜化されなかったのは気性が荒かったから。(シマウマ、アフリカ水牛等)

・文字を地域ごとに独自に発明するのは極めてまれで、多くは他の地域から伝わった物を改良したものである。

・技術は、非凡な天才がいたおかげで突如出現するものではなく、累積的に進歩し完成する。また技術は必要に応じて発明されるのではなく、発明された後に用途が見いだされる事が多い。

・小規模集団の併合は自発的に起こるわけではなく、外圧にさらされるか、実際に征服されるかして起こる。

・同じユーラシア大陸でも、中国ではなくヨーロッパにリードを奪われた理由は、中国は統一国家の時代が長く、一人の支配者の決定が全国の技術革新の流れを再三再四止めてしまうようなことが起こったから。 また地理的にヨーロッパは程よく分断されていた為に、進化のスピードが速かった。 これには大きな疑問が残る。中国は銃と鉄、それに航海技術を持っていた。にも拘らずオーストラリア大陸などを侵略しなかったのはなぜか。 それが中国の一人の支配者の決定によるものならば、ヨーロッパが銃と鉄以外のどんな意思決定プロセスで侵略行為に至ったのかを深く考えるべきだと思う。





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