【感想】ダン・アリエリー 著『予想どおりに不合理』



読んだ本のこと

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ジャーナリズム:00

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社会科学:30

自然科学:40

技術,工学:50

文学:90

公開日:2023/10/4    

■本の情報 
<作者> ダン・アリエリー 訳:熊谷淳子
<発行日> 2013年8月 (早川書房)
<原題> Predictably Irrational

ネタバレを含みます。緑字が私の感想/コメントです。

■感想 

本書は行動経済学について、本人の面白エピソードも踏まえながら様々な事例を用いて説明しています。 著者の主張は、人間の不合理な行動にも一定の傾向があるため、その傾向を理解することで我々の生活をより良いものにできるというものです。 これまでの経済学の考え方によると、全員が合理的な考え方に従って行動するため、もし無料のランチなるものがあったら誰かが既に目をつけて、その価値を全部吸い尽くしているというが、 行動経済学はにとは合理的に行動するわけではないので、無料のランチは存在するという考えである。

私が本書を読む前から知っている内容がいくつかありましたが、もしかしたらこれは元々は著者が解き明かした内容だったのかもしれないと思い、とても興味深く読むことができました。 ただ説明が少し長かったので、もう少し簡潔に説明されればよかったと思いました。

なお、ここでの不合理な行動とはあくまでも経済的に不合理であるか否かを述べたもので、経済的には不合理であるが人類の長い歴史においては そういった行動が主としての生存競争において有利に働いていたのではないかと私は考えており、なぜこの様な行動をとるのかも知りたいと思いました。

■要約 

<相対性の真理>
それぞれの特性で優れていて甲乙つけがたいAとBを比較する際、そこにAより少し特性の劣っているA'を比較対象に加えると、Aを選ぶ確率が高まる。



人間は物事を相対性に考えるという事は良く知られており、 例えば「松竹梅の3段階のグレードがある商品はその真ん中の商品が選択されやすい」という事や、幸福度ランキングが高かったミャンマーがインターネットの登場により幸福度を大きく下げたという事例は有名です。 しかし今回の事例の様な、物事の相対的な捉え方はとても興味深いものだと思いました。なお人間の相対的に物事を考える性質はそれが生存競争において不可欠だったからだと思われます。

<モノの値段>
モノの値段は需要と供給の関係で成り立っていると思いがちであるが、実は最初に誰かが決めた値段が基準になっている場合があるという。これもアンカリング効果の一種である。

<無料の力>
例えば200円の物が100円になるのと、100円の物が無料になるのでは、後者の方が圧倒的に魅力的に映る。 後者の方が割引率が大きいのでそれは当然かと思うが、100円の物が1円になる場合に比べても無料になる効果は大きいという。

<社会規範と市場規範>
社会規範で成り立っていたものに市場規範を持ち込むと上手くいかなくなる。例えば

・善意で成り立っていたお手伝いやボランティアに金銭的報酬を与えると、仕事への対価と捉えてしまい、その善意の活動のやる気を損ねてしまうことになる。 例えば、オープンソースのソフトウェア開発においては、無償であるがために開発がうまくいくのであって、ソースコードを書いたことに対して報酬を与えてしまうと、 うまくいかなくなる。

・モラルやマナーの上で成り立っていたものに罰金/料金という制度を導入すると、お金を払えば許されるという考えになってしまう。 例えば、託児所に子供を迎えに来るのを遅れるのを防止するため親に罰金を科すと、その金額を払えば遅れても良いという考えになり、逆に迎えに来るのが遅れる親が増えた。 これはマイケル・サンデル著「それをお金で買いますか」でも述べられていますが、本書はさらに踏み込んでおり、一度罰金性を導入してしまうと、 罰金性を廃止しても遅れてくる親は罰金性の前の水準には戻らなくなったと述べています。

他には、無料で配布するクッキーは、無料の場合はみんなが遠慮して多くの数のクッキーを持って帰らなくなったが、お金を徴収するとお金を払えばどれだけ持って帰ってもよいという考えになってしまう。

<選択の自由>
人は常に選択の幅を残しておきたがる。しかし私たちは、選択肢を残すために他の何かを手放している。シーナ・アイエンガー著「選択の科学」においても選択の難しさが述べられており、 豊富な選択肢は必ずしも私たちの利益にはならないとされておりますが、ここでは、選択肢が少なくてもそれぞれ魅力的な選択肢が残されている場合においては、 なかなか一つに決められずに大きなコストを支払っているとされる。

<その他印象に残ったこと>

・性的興奮状態にある時は判断が理性的判断力が鈍る。
・先延ばしグセを直すには、本来の納期より手前に自ら納期を課すこと。それを周りに宣言した方がより効果的。
・知識が先か後かで経験が変わる。前もっておいしそうだと思ったときはおいしく感じ、不味そうだと思ったら不味く感じる。
・人は直接金銭に絡むことに対しては不正を働きにくいが、直接金銭に絡まないこと(物品、ポイント)に対しては不正へのハードルが下がる。 また、チャンスがあればごまかしをするが、決して目一杯ごまかすわけではない。また、一旦正直さに付いて考え出すと、ごまかしを完全にやめる。





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