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■本、著者の情報
<作者>高野 結史
<出版社>株式会社 宝島社
<発行月>2024年2月
■あらすじ
若き日雇い労働者の青年・佐藤は、行方不明になった同僚を探していた。手がかりを求めて偶然応募したバイトの派遣先は、孤島に建つ奇妙な形をした洋館、通称「奇岩館」だった。
現場での佐藤の役割は、あくまでも“モブキャラ”として、主役たちの背景に徹すること。当初は理由もわからないまま指示に従っていたが、やがて本物の殺人事件が起こり、事態の異常さに気づく。
実は奇岩館では、富豪が主催する「リアル・マーダー・ミステリー」が行われていた。富豪は“探偵役”を自ら演じ、台本に沿って進むはずの“架空の殺人劇”を、実際の殺人を交えて再現しようとしていたのだ。
佐藤が生き延びるためには、探偵役が事件を解決し、犯人を暴くことが唯一の希望だった。しかし、ついに探偵役が犯人を指名した瞬間、佐藤は恐るべき真実を知る。この場に“探偵”などいなかったのだ。
命の危険を感じた佐藤は、館の窓を破って海へと飛び込み、命からがら脱出する。暗い海を漂ううちに、彼はこの“探偵”が、すでに殺されていた人物、天河怜太であったことに気づく。
さらに、暗い海の中で岸壁を見渡すと、岩の影に洞窟のような穴を見つけた。奥へ進むと、そこには観客席のような空間が広がっていた。驚くべきことに、奇岩館での殺人劇は巨大なショーとして、多数の観客に観賞されていたのだ。
そこであえなく捕らえられた佐藤は、運営側に向かってこの「殺人劇」の台本がいかに破綻していたかを冷静に指摘し、「自分なら、もっと完成度の高い脚本が書ける」と持ちかける。
その機転により、佐藤は命を落とすことなく、この狂気の舞台から生還を果たしたのだった。
■感想
ミステリーにあまり詳しくない私にとって「探偵役を当てる」という仕掛けは新鮮だった。
本来の探偵が天河だったという展開も意外性があったが、さらにその探偵を殺した人物が船長に扮していた彼の父親だったというのは、そこへ至る伏線がほとんど見当たらず「ふうん、そうだったのか」という淡白な印象しか残らなかった。
そもそも、殺人が次々と起こる中で、船長が一度も部屋から出てこないという状況は、やや不自然にも感じられた。
また、奇岩館での殺人劇が多数の観客によって鑑賞されていたという展開も驚きではあったが、途中で監視カメラの映像を止める描写などがあったため、注意深く読めばその可能性に気づけたかもしれない。
設定としては、漫画『カイジ』を思わせるような、外部から見世物として観察される構図が印象的だった。
作品全体はシリアス一辺倒ではなく、倒叙ミステリーの形式を取りながら、犯人側の葛藤や舞台裏が描かれることで、むしろコメディ的な軽妙さが生まれている。
そのバランスが作品全体に良い効果をもたらしているかどうかは評価が分かれるところかもしれないが、少なくともミステリー初心者にとっては読みやすく、十分に楽しめる内容になっていると思う。
一方で本格的なミステリーを好む読者には、やや物足りなさを感じさせるかもしれない。意外性を追求するあまり、物語の展開に納得感が得にくくなっていたようにも感じた。
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