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■本、著者の情報
<作者>高野 結史
<出版社>株式会社 宝島社
<発行月>2021年4月
■あらすじ
真壁天は、人間と接するよりも死体を解剖する方が性に合っている、いわゆる“人嫌い”な法医学者。
大学の法医学教室で助教を務めており、日々は行政解剖や論文執筆に追われている。
あるとき、教授・宇佐美から、児童虐待の鑑定(臨床法医学)を手伝うよう依頼され、真壁は気乗りせずながらその仕事を引き受けることになる。
臨床法医学の現場で、真壁は虐待の疑いがある親子を対象に調査を行い、ある母親・黒須家などの虐待傾向を見抜く。
だがその直後、彼が「虐待を指摘した」親たちが次々と“首吊り死体”の状態で発見され始める。
真壁はそれらの死体の状況を手がかりに調査を進めるが、あるときふと、自分が小学生のときに見た、親友・ハルの首吊り死体の記憶がよみがえる。
それは、秘密基地での事故か事件か曖昧な “首吊り” の光景であり、真壁に深いトラウマを残していたものだった。
■感想
私の予想では、犯人は真壁天自身であり、繭は幻の存在だと思っていました。結果として前者は外れましたが、後者は的中しました。
繭が幻であると気づいたとき、「実際に死んでいたのは繭自身だった」という事実に思い至り、では「ハルはどこに消えたのか?」という点まで考えを巡らせていれば、
真犯人にも辿り着けたかもしれない。残念。また近藤がハルだったという展開は完全に予想外でした。
ただ、近藤(=ハル)が天に対して16年間も強い憎悪を抱き続けた理由については、やや弱い印象を受けました。
子どもの頃から天と比較され続けたことがトラウマになっていた、という説明は理解できますが、それだけでは動機として少し物足りないように思えます。
もう少しハルの人間性や心理の掘り下げがあれば、物語全体の説得力がより高まったのではないでしょうか。
むしろ、子どもの頃に繭を殺してしまったこと自体がハルにとって大きな恐怖となり、復讐心どころではなくなっても不思議ではないのでは、と感じましたし、
そもそも捕まっててもおかしくないような気もしました。
また細かい点になりますが、作中で時折函館弁が出てくるものの、その扱いがやや中途半端に感じられました。
もしキャラクターの特徴として函館弁を設定するのであれば、会話全体でもっと徹底して使ったほうが効果的ではないかと思いました。
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