【まとめ】「納得の構造」 渡辺 雅子著



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公開日:2024/11/11    

■本、著者の情報
<作者>渡辺 雅子
<発行日>2004年9月
<出版社>(株) 東洋館出版社

■論理的と感じる要因

ある言語特有のパラグラフ(文の最小構成単位)の順番を学ぶことは、その言語特有の論理システムを学ぶことに他ならず、論理的でない/納得しないと感じるのは、ある言語や文化に特有の"考え方の順番"から外れている時だと言われている。

話の筋が通っていると感じるために必要な要素は「統一性」と「一貫性」である。統一性とは説明に必要な部分が全て揃っている事であるのに対し、一貫性とはそれら必要な部分が聞き手に理解可能な順番に並んでいることである。 いくら必要な材料が全て揃っていても、それが聞き手の期待する順番に並んでいないと、論理一貫性がなく、納得できないという感情が起こる。

■日本とアメリカの作文構造/作文教育の違い

日本で最もよく使われる作文構造は「起承転結」であるのに対して、アメリカのエッセイと呼ばれる小論文は、「主題提示・主題の証明・結論」の三部構造になっている。 主題提示文が最初に現れるものを「演繹的」作文、最後に置かれるものを「帰納的」作文とすると、アメリカのエッセイは演繹的作文であり、日本の作文は機能的作文と言える。

アメリカでは作文の書き方を徹底的に型にはめてに指導する。日本では作文の書き方は教えず、生き生きとした気持ちを表現することを重視し、 体験を振り返りながら、その時自分がどんな気持ちだったかを自分の言葉で表現できているのが良い作文であり、それによって個性は発揮されるという。

作文の書き方に縛りをいれない日本の方が自由な表現ができるかと思うかもしれないが、考えてみると、自由であるためには選択肢が必要で、一つの書き方しか知らない人はその書き方に縛られる。 実際に日本の児童の作文はどれも似通っている。つまり個人の主張を自由に表現する前提として、アメリカの様にいくつかの様式を身に付けることは必要なプロセスなのである。これを自由と規範のパラドックスという。

■日本とアメリカの歴史叙述/歴史教育の違い

日本における歴史叙述は「連続性」「自然性」「不可逆性」の三つの特徴を持っている。歴史には明確な始まりも終わりもなく、無限に前へと進む時間の勢いによって成り立っているというものである。 アメリカの歴史叙述は「因果律」による枠組みが用いられており、「なぜ」「何が原因でそうなった」に対する疑問への回答、あるいは「遡ってその因果関係の源を探ること」である。 そして日本の歴史学者は進化を「無限の適応過程」と捉えたたのに対して、アメリカの歴史学者は進化を「自然淘汰の法則によってもたらされた最終結果」と捉えており、双方時間の流れを逆から見ている。

<歴史教育>
日本では「何」を「どのように」という問いが多く、アメリカは「何」を「なぜ」という問いが多い。「どのように」という質問に対しては一連の出来事をはじめから順にたどり、出来事が起こった様子、手段、背景に注目するのに対し、 「なぜ」という質問に対しては結果から逆に連鎖を辿って原因を見つけ、人間の意図や目的、行動に注目する傾向がある。

日本の様に、長い連鎖でものが語られる時、特に説明を加えなくても出来事と出来事の因果関係が推測されるため、それが真実であると即座に感じる傾向がある一方、個々の出来事がそれぞれどれくらい結果に影響を及ぼしたのか特定しにくい (実際に歴史とはそのようなものである)。 そういった考え方に立脚すると、私たちの行動は目前にある結果とは直接結びつかず、ある意味では高遠な未来の目標と結び付けられる。そうなると結果を速やかに達成しようと計画したり行動するよりは、目的に向かう「態度」や「心構え」が重要視される。 一方アメリカの様に、結果から振り返ってその原因を探すという過去の出来事を理解する構造が、そのまま未来を理解する構造としても使用される。この構造では、目標は十分予測可能な近い未来に設定され、目標達成のための手段である行動と目標が直接に強く結びついているところ、すなわち短期間内における直接的な因果関係に注目する。

歴史を理解するうえで最も重要なのは、日本では歴史上の人物に思いを寄せることができるという「共感力」であるのに対して、アメリカでは「分析力」であるという。 また日本は、社会共通の価値観など形成など見えない学力を積極的に評価し、アメリカでは技術を数値化して評価する

■四コマ漫画の作文実験

小学生に以下の絵を見せ、登場人物(けんた/ジョン)の一日がどんな日だったかを説明してもらうと、日本の小学生は出来事が時系列に従って説明した(①⇒②⇒③⇒④)のに対して、 アメリカの小学生は一日の評価を最初に述べた後に、出来事が時系列で述べられる(④⇒①⇒②⇒③)ケースが多かった。これも歴史叙述の違いと同じ構図である。


<コメント、観想のパターン>
「感情的評価」「規範・道徳的評価」「因果的補足」「私見・アジェンダ」に分類される。日本の児童は、規範・道徳的評価(けんたが悪い、自業自得だなど)や感情的評価(けんたがかわいそうなど)が多く、 アメリカの児童は因果的補足(よく眠れなかったので、疲れて寝坊したのだろうなど)が多かった。

■本の構成

第1章 叙述の順番と論理のシステム

第2章 順番のマジック-四コマ漫画の作文実験
 1. 日米の子供たちは同じ絵をどう説明するか
 2. 日本人児童の作文の特徴
 3. アメリカ人児童の作文の特徴

第3章 いかに書くか-作文指導と想像力
 1. 日本とアメリカの小学校
 2. アメリカの作文教育
 3. アメリカの作文指導 - 創造性開発の訓練
 4. 日本の作文指導
 5. 作文実験の謎解き

第4章 二つの日米逆転現象
 1. 自由と規範のパラドックス - 個性と想像力のあり方
 2. 作文教育の歴史の逆転 - 書くことを通じて求められる能力
 3. 見たまま、思ったままを素直に綴る - 日本の「学校作文」の誕生と変遷
 4. アメリカ作文教育の源流と革新
 5. 日米作文教育の歴史と変化

第5章 いかに語るか - 歴史教育と分析力・共感力
 1. 過去はどう語られるか
 2. 日本の歴史授業 - どのように?と問う意味
 3. アメリカの歴史授業 - なぜ?と問う意味
 4. いかに評価するか - 良い説明と求められる能力
 5. 歴史教育の二つのスタイル

第6章 正しい行動の二つのパターン - 目標と評価をつなぐもの
 1. 日米通知表比較
 2. 目標と評価の因果関係 - 価値目標と技術目標
 3. 二つの社会が求める能力
 4. 能力の応用
 5. 授業の構造と叙述の構造

第7章 スタイルの衝突
 1. スタイルの混合と思わぬ結末
 2. 納得の構造
 3. 納得のスタイルと時間の把握

第8章 ポストモダニズムを超えて





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