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■本、著者の情報
<作者>アンディ・ウィアー, 小野田 和子 訳
<原題>PROJECT HAIL MARY
<発行日> 2021年12月 (株) 早川書房
■感想
眠りから覚めた主人公(グレース)が、自分が誰で、どこに、何故いるのか、科学的考察をもとに解明していく様子がとても面白い。
グレースの記憶が徐々に戻っていくのは、読み手へ配慮した単なるご都合主義かと当初は思っていましたが、それにはきちんとした理由があり物語後半で明かされることになります。それが自然な伏線回収となりとても良かったです。
一方不満だった点として、多くのSF作品は科学的な矛盾を抱えているもので、いちいちそれを指摘するのは野暮なことだと私は考えておりますが、
本書は一貫して詳細な科学的な知見に基づいた説明がされている事により、矛盾があるとどうしても気になってしまいます。
また、グレースからの便りを心待ちにしている二十数年間の地球の状況、タウメーバが届いてからアストロファージを駆逐して地球が救われるまでの描写が欲しかったのですが、
残りページ数が50ページくらいになった時点でそういった描写がない事がわかり、一気に時間を経過させて締めくくる(そして数年後パターン)という結末が読めてきたのが個人的に残念でした。
ロッキーとの様々な作業の描写が分かりづらく、何かいい感じにしたのだなという理解しかできなかったので(もっと図解が欲しい)、それらの細かな作業の描写に紙幅を割く位なら、結末部分をもっと描いて欲しかったです。
その他気になったことを以下に示します。
・ 結局ロッキーは人類と共通の祖先なのか違うのか明らかにして欲しかった。パンスヘルミア仮説に立脚し、人類の祖先についてもっと深掘りして欲しかった。
・ シャピロとデュボアの性的関係についての話題の必要性が不明。実はこれがこの本で一番理解不能な場面でした。この描写があるだけで、私は自分の子供にこの本を薦める気にはなれません。
・ グレースとロッキーが別れた後、タウメーバに関する問題によって困っているだろうロッキーを探しに行き、見事ロッキーを見つけること。あり得ないと感じるところは他にもありましたが、中でもこれが流石に可能性としてありえないなと感じました。
・ なぜ他の2人のクルーが休眠に失敗したのか、その理由を考察、あるいは描いて欲しかった。
・ 宇宙船の加速度を0Gにすると宇宙船が停止したかのような表現になっているが、実際には等速直線運動をしている事にしかならない。
・ 意味がよく分からない説明が時々あるなと思ったら、それは誤訳だそうで、ネットでも多くの指摘がありました。
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